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感想 「キャラクター絵画について」

 

「キャラクター絵画について」

 

会 期:2022年9月8日(木) - 2022年9月17日(土)

時 間:15時-20時

休 廊:水

場 所:パープルームギャラリー

出展作家:門眞妙、川獺すあ、ペロンミ

展覧会URL:https://parplume-gallery.com/


 

初めにおことわりしなければならないですが、私はレビューを書く際に「これこれこういうブログをやっているのですが感想書いてもいいですか?」と確認しているのですが、今回はしてません。ごめんなさい。何でかと言うと、書く書かないの判断もふわっとしたまま、場の雰囲気に呑まれそうだったため、自己紹介するのも躊躇するという現象が起こりました。

 

場の雰囲気に呑まれそう、というのは完全に私の都合による感じ方で、入り易く、むしろ話し易く、とても良い環境だったというのを補足しておきます。私は書きながら自分の感想が固まっていくタイプで、観ている最中はあまり頭が働いてないので、何かを会話の中で拾ってしまった挙句いつも通りの感想でなくなるのを恐れたというのもあります。いや、もっと言うと、パープルームに呑まれるのを拒んだ形です。パープルームについて簡単に補足しますと、現代美術家の梅津庸一さんが立ち上げたアート・コレクティブ、、、と言うか美術の実践共同体で、「パープルーム予備校」という予備校らしからぬ教育機関を運営、メンバーのSNSや「パープルームTV」というYoutubeチャンネルで日常から制作の様子、生活、批評など活動そのものが発信されています。パープルームについては、私はある種の、リアリティ番組という形を持った作品なのではないかという感想を抱いているのもあって、通常の展覧会でギャラリーの方と話すのとはわけが違う、と思ったわけです。レビューする側が作品の中に呑み込まれてしまう。

 

前置きが長くなりましたが、本展「キャラクター絵画について」は、今や現代美術の世界で市民権を得た感があるアニメっぽいキャラクター表現について、アートマーケットの観点からではなく美術批評の文脈でどのような位置付けが可能か、を試みる第1弾の展示です。90年代に村上隆さんが、オタクカルチャーの占有表現であったアニメっぽいキャラクター (厳密には特定のアニメの「二次創作」ではないけれど「二次創作」に見られる様な歪な表現を抽出した形であったと思います) を現代美術に持ち込んでから久しく、当時は村上さんとオタクと呼ばれる人々との間にはかなり緊張感のある論争が起こっていました。その後もしばらくは美大のような教育機関でアニメっぽいキャラクター表現が認められる環境はありませんでした。そういったことも忘れ去られるようになった昨今、その歴史や、作家同士の相関 (表現の相関や人間関係) を一度取りまとめる必要性を感じた梅津さんによる企画展です。

 

出展作家は門眞妙さん、川獺すあさん、ペロンミさん。

 

 

 

門眞妙さん

 

 

川獺すあさん

 

 

ペロンミさん

 

 

門眞さんとペロンミさんは宮城県生まれ、川獺さんは山形県生まれと、3人には東北地方出身という共通点があります。「キャラクター絵画」を描くことになった経緯はそれぞれ違うと思いますが、東北という「冬の時期が長い、寒いイメージ」の土地柄から「屋内など限られた環境での人間関係を育む時間が長い」という素地が連想され、「キャラクター」という「デフォルメされた人物表現」に、人間との接し方から発展した表現の共通点が見られるのではないか、と感じました。別の地域の出身で「キャラクター絵画」を描く作家ももちろんいますし、同じ東北出身の作家でも全く違う表現方法を採る人ももちろんいますが、この3人には「キャラクターのどこにエモさを感じるか」に共通点があります。目の表現です。

 

 

門眞妙「洪水」(部分拡大)

 

川獺すあ「encounter」(部分拡大)

ペロンミ「ペロンミの履歴書」(部分拡大)


目尻に向かって下がった上睫毛の角度、そこにかかる瞳の面積、瞳の大きさ等、似てませんか? 憂いを湛えた目です。川獺さんは本展に発表されている作品とは違った表現で顔を描いている作品もあり、キャラクターについては「冷めた目で見てる」「解体」というワードも出てきているのですが、ご本人が元々持っているであろうエモさを感じる部分とか、好きな顔の表現とか、手癖のレベルでは門眞さんやペロンミさんと近い部分がある様に思います。

 

参考動画:

【パープルームTV】第151回 「キャラクター絵画」について 川獺すあ・インタビュー Part 1

【パープルームTV】第152回 「キャラクター絵画」について 川獺すあ・インタビュー Part 2

 

 

 

「キャラクター」と言っても、このように元々持っている表現に共通点を感じた3人の作家ですが、美術教育という点では違いがある環境で表現を熟成してきた3人でもあります。誤解なきよう補足しますが、どこの教育機関だから良い悪いではなく、環境の違いから見られる表現方法の違いなどを考えるための情報として記しています。

 

 

 

門眞さんは1985年生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業、Mr.さんのアシスタントを経て、数々の個展、グループ展、アートフェアに作品を発表されています。学歴や経歴においても一流という印象です。

 


門眞妙「わたしの気象」

少し遠目から観ると写真か? と思ってしまうくらいの背景のリアルさです。昔、テレビ放映で親しんで観ていたセル画アニメも、今考えると背景の描き込みがとても細かいものがありました。門眞さんの作品は、デフォルメされた人物と背景の差をより大きく進化させている様に感じます。

そしてそのリアルさから「東北」「震災」「復興」というキーワードが浮かんで来たのですが、それがテーマだと安易に帰結させない画力があります。

こういうコンセプトだからこう、というものではなくて、絵画としての美しさのほうにより主題を感じる、描かれている空気感に没入することでキャラクターの感情とリンクする感覚を得られる、そちらに主題があると思わせる画力です。


 

 

 

川獺すあさんは1999年生まれ、東北芸術工科大学洋画コース卒業。在学中より韓国・ソウル市や宮城県・石巻市で個展を開催されています。東北芸術工科大学は、1991年に創立された公設民営方式の私立大学です。生年からも、アートの世界にキャラクター絵画が存在している環境で育った「キャラクター絵画ネイティブ世代」であり、キャラクターを用いること自体に何か意味を持たせるというよりは当たり前のように存在している表現として衒いなくキャンバスに持ち込める感覚があると感じました。

 

 

川獺すあ「seek in mist」

宙に浮いた首、、、サロメを描いたモローの「出現」、、、などと一瞬思ったのですが、安易にそう言うのを躊躇させる何かがあります。キャラクターがキャンバスの上に出現することに、過去の名画の参照などを通して解釈しようとするのは鑑賞者として「ダサい」と感じさせるくらいに、自然な表現として備わっている。

この表現を水彩やアクリル絵の具でなく油彩で描いているところに美術大学での教育を感じたりもします。絵画として成り立つ色使いや構図もありながら、キャラクターの顔はちゃんとエモい。これが「キャラクター絵画ネイティブ世代」か、、、。


 

 

 

ペロンミさんは1987年生まれ。美術大学で教育を受けたわけではないけれど、SNSを通じて作品を発表、ギャラリーから声がかかり作家として活動されているという経歴の持ち主です。「SNSの海に有象無象の一人として漂流していたものがそいういうふうにピックアップされて割と目立つところに行くっていうのは、みんながそうなるわけじゃないから。そうなったからにはたまたま芸大卒だから発表の機会があるっていう作家以上に責任があると思う。 (中略) 夢を与える必要がある。そうじゃなかったらギャラリー所属はやめるべきだと思います (「キャラクター絵画について 図録より抜粋」)」という梅津さんの言葉にある様に、ある意味で憧れの対象にもなり得るが、その分注目もされ、芸大主義を否定できる存在としての責任が生じるポジションにいる作家さんです。本人が望む望まないに関わらず「キャラクター絵画」の歴史が生んだ時代の寵児とも言えます (言い過ぎだったらごめんなさい) 。

 

そのペロンミさんの作品ですが、自身を取り巻く現状として、描いた作品そのものだけでなくSNSで発信している本人自身のキャラクター性も作品として受け取られていることや、現在所属しているギャラリーから求められていること、前述した「夢を与える存在としての責任」、それらのことに梅津さんとのインタビューを通してより自覚的になって、今回の作品を展示するに至ったのかなぁと想像しました。

 

 

ペロンミ「ペロンミの休学届け (そのまま中退) 」「ペロンミの履歴書」

絵に魅力があるペロンミさんですが、こういう形の作品で来たか、という感想です。パープルームのインタビューから、ペロンミさん自身を取り巻いている今の状況などが分かると「なるほどなぁ」と思いました。この「キャラクター絵画について」は今後も別の作家さんを展示するなどしてシリーズ化されるようですし、後になって振り返った時に「あの時何が起こっていたか」が分かるようにしたい、という趣旨もあるので、そう言う意味ではメモリアルで、作家の葛藤も感じられて、すごくいい作品だと思います。

ただ、「美大での教育」を受けていない作家がコンセプト重視の作品に移行する、みたいな傾向になっちゃうのは惜しいと個人的に思うので、今後も「絵」を観たいです。


 

参考動画:

【パープルームTV】第147回 「キャラクター絵画」について ペロンミ・インタビュー Part 1

【パープルームTV】第148回 「キャラクター絵画」について ペロンミ・インタビュー Part 2

 

 

 

パープルームTVでは門眞妙さんのインタビュー動画は公開されておらず、会場で販売されている図録にインタビューが掲載されているので、貴重なアーカイブとして手に入れておくことを推奨します。また、門眞さんのTwitterでは展覧会やインタビューのエピソードが漫画で紹介されています。

 

図録はオン・サンデーズでも販売されているようです。

 

漫画チラ見せ。リンクは→こちら


 

 

あの時何が起こっていたのか、その場にいた人にしか分からないことが多い。関係性や表現の影響、経緯などが作家さん本人たちによりまとめられるのはとても貴重なことです。個人的には、キャラクターの姿、主に目の表現に「エモさ」を込めるのは、日本がオリジナルだと思っています。「キャラクター絵画史」は日本の美術史において重要な意味を持つのではないでしょうか。ネットに流れている情報でさえ、「いつでも取り出せる」と思っていたものが地層の奥深くに埋もれてしまい、発掘がほば不可能になっているものもありそう、、、。

 

歴史は後になって振り返って初めて「あの時のあれが始まりか、、、」のように思うことが多いです。本展「キャラクター絵画について」にて、3人の作家が集められた事実を目撃しに、ぜひ足を運んでみてください。

 

 

展示風景画像:「キャラクター絵画について」


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