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感想 菅谷杏樹 個展「Ambrosia」

 

菅谷杏樹 個展「Ambrosia」

 

会 期:2022年5月28日(土) - 2022年6月12日(日)

時 間:木金 15時-19時 土日 12時-19時

休 廊:月火水 

場 所:myheirloom

展覧会URL:

https://www.instagram.com/p/Cdx27KSPEoG/


 

蜜蜂とゼリーのような物体が写った写真。これはなんだろう? と視覚的な興味から本展を拝見しました。私が「ゼリーのよう」と思った物体は色付きキャンディで、それぞれヴィレンドルフのヴィーナス、縄文のヴィーナス、エフェソスのアルテミスと、古代に造られ発掘された女性の像の姿がかたどられています。養蜂家は花が咲かない冬の時期の蜜蜂の餌として砂糖を溶かしたキャンディを与えるそうです。本展タイトル「Ambrosia」は、ギリシャ神話において神々の食物を意味します。

 

菅谷杏樹さんは1992年生まれ。東京賢治シュタイナー学校、渡独を経て、東京藝術大学美術学部先端芸術表現科卒業、東京藝術大学大学院大学美術表現先行修了。2019年より東京都檜原村に居を移し、養蜂、養蚕、農業を実践しながら、主に自然物を使用したインスタレーションを制作されています。

 

このアンプルは、、、果たして? (後ほど)

 

養蜂で使用する道具も展示されています。


 

 

私が惹きつけられた写真作品。自然を舞台に、キャンディという人工物のポップさと密集する蜜蜂のグロテスクさの両方があって、快不快の境がわからなくなるようなぐちゃっとした気持ちになります。

上記写真作品はL (A2)・M (A3)・S (A4)・SS (写真L版)サイズのデジタルプリントが販売されており、アクリルマウントもオプションで対応可能のようです。SSのみフリーエディション、他はエディション数により価格が変更されてます。詳しくは会場で。

 

「Honey oath 2022 photo_green_L」

緑色のキャンディは縄文のヴィーナスをかたどったもの。

縄文のヴィーナスは長野県茅野市米沢に位置する棚畑(たなばたけ)遺跡より出土。「土偶」の名で国宝に指定されています。妊婦をかたどったとされ、大きなお尻が豊饒のシンボルのように思えます。祭祀場と見られる広場の中の土坑に横たわるように埋められていたそうです。茅野市は諏訪湖にも近いですし原始的な宗教観を感じさせます。

 

「Honey oath 2022 photo_red_L」

赤色のキャンディはヴィレンドルフのヴィーナスをかたどっています。

ヴィレンドルフのヴィーナスはオーストリアで発見されました。紀元前27,300年頃に彫刻されたと推定され、先史時代の美術として教科書で見た方も多いかもしれません。大きな乳房やお尻が特徴。2018年には、Facebook (現Meta) の検閲でヴィレンドルフのヴィーナスを使用した広告画像が削除されたことに対し反発を受け、Facebook側がエラーだったと謝罪する、なんてこともありました (参考:INSIDER 記事)。


 

「Honey oath 2022 photo_blue_L」

青色のキャンディがかたどっているのはエフェソスのアルテミス。

アルテミスというとギリシャ神話の狩猟・貞潔の女神を思い浮かべてしまいますが、このエフェソスというギリシャ人都市 (現在はトルコ西部) に祀られていたアルテミスは豊饒の女神。上半身に乳房が多数付いているという不思議な形状をしています。そしてその象徴は蜂だったそうです。


 

「Honey oath 2022_red【COMPLETE PACK】」

これは、、、。作品情報によれば「ミツバチに与えた飴を封入した立体作品、採取したハチミツ」とのこと。【COMPLETE PACK】には、該当色の、映像作品と写真S (A4) サイズのed.1が付属します。

 

先ほどのアンプルは採取されたハチミツだったんですね。

 

「Honey oath 2022_red【COMPLETE PACK】」

立体作品部分

検閲でひっかかってしまうほど豊満だった肉体の面影もないですね、、、。

 

「Honey oath 2022_red【COMPLETE PACK】」

立体作品部分 (別角度より撮影)

海綿みたいになってる、、、。


 

「Honey oath 2022_green【COMPLETE PACK】」

 

「Honey oath 2022_green【COMPLETE PACK】」

(別角度より撮影)

立体作品としても美しいですが、、、

 

「Honey oath 2022_green【COMPLETE PACK】」

立体作品部分

生々しく、奪われた感もある。


 

「Honey oath 2022_blue【COMPLETE PACK】」

 

「Honey oath 2022_blue【COMPLETE PACK】」

立体作品部分

首が! と思ったけど、冠だった部分が分かれちゃったみたいですね。

 

「Honey oath 2022_blue【COMPLETE PACK】」

立体作品部分 (部分拡大)

蜜蜂は他の花から移動してきたのか、キャンディが花粉まみれになってます。


 

そして、キャンディからミツを吸う蜜蜂を撮影した映像作品が上映されていました。スピーカーからは羽音が流れます。

 

奥:「Honey oath 2022 movie_red」

 

「Honey oath 2022 movie_red」


 

「Honey oath 2022 movie_green」

 

「Honey oath 2022 movie_green」


 

「Honey oath 2022 movie_blue」

 

「Honey oath 2022 movie_blue」


 

あえて、蜜蜂に襲われる女性像という人間視点の構図に注目してみましたが、何も蜜蜂が一方的に搾取するだけでなく、人間はその恩恵をハチミツという形で受けています。また、キャンディにくっついた花粉が示すように、さまざまな植物、作物の受粉の手助けも蜜蜂は請け負ってきました。

 

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"HONEY OATHS" は「蜜の誓い」と訳せるが、その名には人と自然の間で守り続けなくてならない祈誓の意味が秘められる。しかし蜜蜂と人間の約束は近年になり大きな変化を被っている。人工受粉、農薬使用、大気汚染、品種改良...人間の側から盟約が次々と破られ、蜜蜂の大量死など人間へ直接跳ね返ってくる問題が相次いでいる。

 

( 「蜜の誓い」伊藤俊治(美術史家/東京藝術大学名誉教授)より抜粋 )

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蜜蜂の大量死! この展示を観るまでそんなことは知らず、、、いや、ニュースでは流れていたのかも知れない、けれど、気にも留めていなかった。蜜蜂を失ったら、ハチミツが採れなくなるというだけではなく、人間にとって大変なダメージがあります。

参考記事としてこちら→「BUSINESS INSIDER ミツバチがいなくなると世界はこうなる

 

キャンディがかたどっていた像の、ヴィーナスやアルテミスという呼称も、言葉だけのイメージとしては西洋絵画に登場する美しい見た目の女神が先行してしまいがちでしたが、先史時代の、生殖機能が強調された女性の像には自然界の厳しさを踏まえた祈りーー作物の豊作、肥沃な土地、それらがもたらす繁栄ーーが、より視覚的に込められていたと推察します。見て愛でるというよりは、祀られる、あるいは捧げられるなど、神事と結びついていたのだとすれば、自然界に誓いを立てる際の供物のようです。蜜蜂の大量死については、農薬が原因という説もありますが、蜂群崩壊症候群のように未だ解明されていない謎の多い現象もあります。自然界に立てた誓いを人間が破ってしまったことへの罰でしょうか? 自然界に立てた誓いとは何か? 共存、ギブアンドテイク、、、? 理の円環から外れ、収穫量も何もかも自らコントロールしようとし過ぎたのか。

 

菅谷さんは作品を「収穫物」として扱うそうです。「収穫物」という言葉からは自然の恵みを連想します。必要以上に採り過ぎず、未来のことを考えて、循環させる、次に繋げる。去年よりももっと、とか、他人よりももっと、とか、快不快の快だけが欲しい、というエゴは考え直さないといけない。菅谷さん自ら自然の中で共生という生き方を実践されていることから、本展は、物事への表面的な警鐘ではなく、理想論でもなく、実態だと言えるでしょう。真の女神像とは、蜜蜂にミツを吸われ花粉まみれになったこの形のことを言うのかもしれません。それは神に供された物、神々の食べ物、この場合の神とは蜜蜂のことです。

 

 

「ブーン」と記すと煩わしい音のように感じてしまいますが、会場に流れる蜜蜂の羽音はとても心地よかったです。作家の生き方、訴えられていること、美術がなせること、女性の像とは何だったのか、神とは何か、蜜蜂に今起こっていること、どんな切り口からでもいいと思います、ぜひ、この展覧会に触れてみてください。

 

 

 

展示風景画像:菅谷杏樹 個展「Ambrosia」


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