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感想 中岡真珠美 個展「窓景」


 

中岡真珠美さんは1978年生まれ、京都市立芸術大学大学院美術研究科修了。VOCA展や国外でも作品を発表されており、令和3年度京都市芸術新人賞など数々の賞も受賞されています。

 

中岡さんは自身の作品制作について「私はずっと風景を追いかけていて、表面の仕事、その数ミリの、目で見ている反射以上のものを見させてくれる、それが絵画の力、イリュージョンの世界だと思っています。(アートフロントギャラリー 中岡真珠美:窓景 作家インタビューより抜粋)」と言及されているように、風景というモチーフを軸に、現実に見えている以上のものの表現に挑まれています。もともと、中国や日本の山水画などに見られる「理想郷を描いた」風景に興味をもっていたそうです。

 

理想郷というキーワードもありながら、実際には「時空間の異なる複数のイメージを並べたり想像の「嘘」を入れ込むことがない。(五十嵐卓「中岡真珠美の「窓景」によせて」より抜粋)」という制作方法をられています。

 

「現実に見えている以上のものを見せる」には。そこには鑑賞者の想像を呼び起こさせる装置、引き算の世界が展開されていました。

 



 

家屋の柱のように木で組まれた枠の中央に、浮いているような形で作品が展示されています。部屋と部屋の間を行き来するような感覚で作品鑑賞ができました。

 

中央:「Fenestra - またたき」

 

中央:「Fenestra - またたき」(裏面)

作品の裏面にも特徴ある枠組みが。


 

中央:「Fenestra - 日陰の質感」(裏面)

入ってすぐに目に入るこちらの作品にはどんな風景が広がっているのでしょうか。

 

手前:「Fenestra - 日陰の質感」

奥に見える作品や代官山の景色と相まって、全然違う印象になりますね。


 

手前:「Fenestra - 日陰の質感」(部分拡大)

木々の上に重なるようにみえる格子状の窓枠。ガラスに反射した向かいの窓かもしれません。

 

奥:「Fenestra - 南東向き -(L)」

奥に見えている作品の裏面が、、、


 

「Fenestra - 南東向き -(L)」

 

「Fenestra - 南東向き -(L)」(裏面)

何となくリンクしているような。


 

中央:「Fenestra - ふりそそぐ -」

洗濯物が干してある。風がそのまま吹き抜けていくような展示位置です。気持ちいい。

 

「Fenestra - ふりそそぐ -」

アトリエで使用した布をかけているのかな。日差しの匂いもしてきそうです。


 

「Fenestra - 集い場 -」

それぞれの作品は「絵ごとに色が統一(アートフロントギャラリー 中岡真珠美:窓景 作家インタビューより抜粋)」されているとのこと。何となくそれぞれ違う季節も感じます。中岡さんの取材時は冬のちょっと前とのことで季節は一緒のはずなのですが、、、こちらは確かに秋らしい。

 

「Fenestra - 朝の光 -」


 

「Fenestra - 日陰の質感」(裏面) の青越しにみると、「Fenestra - 朝の光 -」の紫っぽい青の部分がリンクして見えます。

 

こちらは「Fenestra - ふりそそぐ -」(裏面) から奥を見た画像です。黄色がリンクしている。


 

「Fenestra - 角の木 -」

窓枠に区切られて中央に違う世界が展開しているように見えますが、中央の窓は少し開いていて反射が異なるのか、たまたま窓枠で見えない部分に境があるのか、自然な風景とも思えます。下部、窓の手前にあると思われる、1色で描かれた植物や小物との対比で、流れている空気の違いを感じます。

 

「Fenestra - 木、街、空 -」

強めの日差し。


 

左奥:「Fenestra - 南東向き -(R)」

中央手前:「Fenestra - 昼下がり -」

作品裏面の色面越しに観る作品も興味深いけど、作品越しに観る作品も素敵でした。


 

「Fenestra - 昼下がり -」

 

「Fenestra - 南東向き -(R)」


 

「自然界にない四角という矩形=窓 (アートフロントギャラリー 中岡真珠美:窓景 作家インタビューより抜粋)」という言葉を読んで気づいたのですが、これらの作品には人物は描かれていません。にもかかわらず、人の気配、暮らしぶり、生活といったものが感じられます。自然の中に本来備わっていないはずの矩形という記号を用いることで人の存在を表す、すごい。

 

描かれていないのに感じられるものは他にも、部屋の壁、部屋の広さ、季節、時間帯、天候、風などですが、そのものずばりを描かないからこそ観る人の心情を反映する余地があるとも言えます。冬のちょっと前に取材したはずの景色に、初夏の匂いを感じ取れる作品があるのはなぜだろう、、、。

 

描かないことで人の心の中にある理想を見せる、中岡さんの言う「イリュージョン」ということはこのことかと思いました。

 

 

そしてなんと、本展には風景をテーマにしたもう一つのシリーズがあります!

 

中岡真珠美 個展「窓景」Room G

ガラスに映った景色越しに見てみました (通行人の方が写ってますが顔は見えないからいいか、、、)。

 

「パースペクティブが絵画空間に影響しないような作品を作ってみたのがこちらです。 (アートフロントギャラリー 中岡真珠美:窓景 作家インタビューより抜粋)」

 

パースペクティブとは遠近法を用いた描画技法のことです。遠近法もなく、均一な太さの線で描いたという作品群ですが、これらからは何を感じるでしょうか。

 


 

「Illuviation #0」

タイトルのIlluviationとは集積作用という意味です。普段何気なく視界に入る風景の要素が意識に集積され、濃く溜まった部分を抽出した、そんな意味と取りました。


 

「Illuviation #15」

 

「Illuviation #15」(部分拡大)


 

「Illuviation #7」

 

「Illuviation #7」(部分拡大)


 

「Illuviation #3」

 

「Illuviation #3」(部分拡大)


 

「Illuviation #6」

 

「Illuviation #6」(部分拡大)


 

「Illuviation #2」

 

「Illuviation #2」(部分拡大)


 

ここにも描かれているものと描かれていないものが存在します。ただこちらの作品群は「集積」と言われるだけあって、描かれたものの情報が強く感じられ、都会の喧騒、無機質、夏のむわっとする埃っぽさといったイメージを持ちました。線の表現が「漫画の背景」も連想させます。「平面的」というのが日本の表現の特徴であることも関係していそうです。

 

ギャラリーとのインタビューでは、インタビュアーから「中岡さんが以前タイに長期滞在されたときの建築の解体現場のドローイングを思い出しました。 (アートフロントギャラリー 中岡真珠美:窓景 作家インタビューより抜粋)」との指摘もありました。中岡さん自身は「モチーフや図像は過去のものと似ていますが中身はだいぶ異なるかと思います。前は偶然の結果の現象、今回は途中まで一緒ですが最後に絵画に引き戻す仕事が加わった (同インタビューより抜粋)」と答えています。タイに長期滞在された後の展覧会当時のインタビューも拝見しましたが、自身の日本人としてのアイデンティティの再確認から始まって、支持体を実験的に変えてみる、自身の作品の「中庸・輪郭・融合」という特質はそのままに作品から伝えられるものをどう見せるか、「自然」と「人工物」の対比についてさらに一歩考えを進めるなど、異国での滞在で得られたことが存分に語られていて、本展にも通じる中岡さんの風景に対する考えを理解する助けになりました。

 

参考:dialogue : 中岡真珠美インタビュー前半 2017/3/10

   dialogue : 中岡真珠美インタビュー後半 2017/3/23

 

「Pre-Illuviation #1」

 

「Pre-Illuviation #2」


 

「Pre-Illuviation #3」

 

「Pre-Illuviation #4」


 

同じ作家が描いた、景色を軸に人の存在も感じさせる作品、描かない部分が存在する作品、という共通点があっても、こんなにも印象が変わるということを改めて実感しました。音楽で言うところのアレンジの違いと言うべきか。共通点として感じられたのは、風というか、空気の流れが感じられた点でしょうか。想像を入れ込まず、実際を描いているということも影響しているのかもしれませんし、その、描くことが難しい「空気感」こそがイリュージョンの本質なのかもしれません。

 

「Fenestra」と「Illuviation」のどちらが好みか、なんていう感想を言い合うのも面白いと思います。私は「Illuviation」のシリーズがけっこう好きです。どっちって言われると本当に迷うところではありますが。

 

 

季節や場所まで感じられるイリュージョンでした。ぜひ体感してみてください。

 

 

 

展示風景画像:中岡真珠美 個展「窓景」ART FRONT GALLERY, 2022


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