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感想 尾崎森平 個展「FACES」

 

尾崎森平 個展「FACES」

 

会 期:2021年11月13日(土) - 11月28日(日)

時 間:12時-19時(最終日17時終了)

休 廊:月・火・水

場 所:LIGHT HOUSE GALLERY

展覧会URL:

http://lighthouse-tokyo.net/ozakishinpey_.html


 

展覧会のDMを拝見した時の感想は「これ、絵なんですか?」というものでした。それは、写実的な描写だけに向けたものではありません。

 

誰もが一度は見たことがある、レストランやコーヒーショップ、アパレル、ガソリンスタンドの巨大な看板、おそらくハイウェイ沿いの、車で移動する人たちへ訴求するそれらの看板が画面上で見切れていて、大きく占める空が、温度、匂い、埃っぽさあるいは透明感まで連れてくる、そんな感じがしました。

 

Starbucks(Early Morning)


 

左:UNIQLO(Cloudy Sky)  右:GU(Snow Sky)

 

DAIHATSU(Sunny Sky)

 

NISHIMATSUYA(Rain pattern)


 

idemitsu(Night)

 

Joyfull(Rain)


 

レイアウトの取り方だけで、主題は看板ではなく空であることがわかるという説得力。

 

 

空を写真に収める人は多いです。インスタグラムが登場したばかりの頃は、おしゃれなカフェか空の写真しかない、と揶揄されていました。空は、一番身近にあるもので、二度同じ表情をすることはなく、内面を吐露する媒体として小説などで多く言語化されています。心情の表現手段として私たちにとても馴染みが深いものの一つです。

 

空を表した絵画がないわけではありませんが、絵画であることを利用した多くのそれは、雲の陰影の表現であったり、木々や建物や人物などとの対比であったり、その空気感を強調するために色味や粒子の荒さといった印象を前面に出されたりと、いかにも「絵らしい」空であるように思います。尾崎さんの作品の空について特筆したいのは、誰もが見たことがある看板を「余白」として使うことによって、過剰な描き込みをせずに空を表現することに成功しているところです。画面の中で情報が最も多い部分が「余白」であるという逆転の描写を、説明なくして鑑賞者に理解させています。

 

描写において輪郭を際立たせるテクニックとして、描いたものの外側を塗り消すというのがあります。デッサンであれば輪郭の外側を白く消すというものです。その場合は、描く順番は主題→背景です。尾崎さんはマスキングを駆使し描く順番も意識したそうです。抑えた色味、グロスまたはマットな質感、描く順番等、シンプルな画面でありながら立体的な計算がなされています。

 

Starbucks(Early Morning) 部分拡大

 

UNIQLO(Cloudy Sky) 部分拡大


 

GU(Snow Sky) 部分拡大

 

DAIHATSU(Sunny Sky) 部分拡大


 

NISHIMATSUYA(Rain pattern) 部分拡大

 

idemitsu(Night) 部分拡大


 

Joyfull(Rain) 部分拡大


 

「余白」と表現しましたが、そこに描かれているハイウェイ沿いの看板というのが、視点が車内にあることを示しており、車でなければ辿り着けない場所を想起させます。看板の傾き具合から、通り過ぎるだけの店なのか、目的地だったのか、立ち去った後なのか、季節はいつなのか、等々、鑑賞者が思い出と重ね合わせて自分の心象風景にしてしまえるところも魅力です。時間帯や天候がタイトルに表記されていますが、自分が思っていたのと違っていても、かえってそれぞれの思い出に自覚的になるのではないでしょうか?

 

Removal(Evening)


 

設置場所の関係でガラス越しに眺めるこの「Removal(Evening)」という作品は、看板が撤去される夕刻の様子を表しているそうですが、朝焼けの中、また新しい看板が設置される場面に見えなくもないです。何ができるのか楽しみな気持ちと、思い出の店がなくなってしまった淋しさを感じます。思い出というのは時に出来事よりも匂いや気温などの空気感が色濃く残っているものです。自分だけの「空」に触れに、ぜひ足を運んでみてください。

 


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