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感想 冨安由真 個展「The Doom」

 

冨安由真 個展「The Doom」

 

会 期:2021年12月17日(金) - 2022年1月23日(日)

時 間:水-金 12時-19時  土日 11時-17時 ※短縮営業

休 廊:月火、年末年始(12/27 - 1/4)

場 所:アートフロントギャラリー

展覧会URL:

https://artfrontgallery.com/exhibition/archive/2021_11/4506.html


 

冨安由真さんは、1983年生まれ、ロンドン芸術大学チェルシー・カレッジ・オブ・アーツにて学部と修士を学び、2017年に東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程美術専攻 (研究領域油画) 修了、博士号 (美術) 取得。心霊現象、超常現象、夢の世界などを題材に、絵画を拡張させた体験型のインスタレーション作品を多く発表されています。

 

本展は、同時期(2021年10月30日(土) - 2022年3月21日(月・祝))に金沢21美術館「アペルト」シリーズで発表されている「The Pale Horse 蒼ざめた馬」とリンクする展示です。

 

蒼ざめた馬とは新約聖書『ヨハネの黙示録』の第六章にて、小羊が第四の封印を解いた時に現れる馬で、乗っている者の名は「死」と言い、黄泉が従っています。

 

私はミッション・スクール出身でして、この記事を書くにあたって久しぶりに聖書を手に取りました。ミッション・スクールでは私を含め特にクリスチャンというわけではない生徒たちが大半で、毎朝の礼拝の説教 (ありがたいお話) の合間に暇つぶしとして聖書を黙読したりするのですが、黙示録は内容がエキセントリックで意味不明で一度は読む章だと思います。新約聖書の一番最後に載っていて、今までの「イエス・キリスト☆奇跡☆」の物語が一転、とにかく夢日記みたいな描写で、人類が災いで苦しむし死ぬ死ぬ。誰も解明できていない抽象的な文章も魅力で、今でも様々な憶測や議論を呼んでいます。最近では獣の刻印が話題だったりなど (ここでは割愛します)。黙示録に何か書き加えようものなら、その者に災いが加えられ、削除したら享受できる分から除きます、とか書いてあるので、誰も何もできません。

 

この蒼ざめた馬、「それに乗っている者の名は「死」と言い、それに黄泉が従っていた」、から連想されるものは「死」そのものではないでしょうか? ウェイト版タロット13番の死神のイメージにも影響を与えています。「彼らには、地の四分の一を支配する権威、および、つるぎと、ききんと、死と、地の獣らとによって人を殺す権威とが、与えられた」ということなので、争い、飢餓、その他、死全般を司っていそうです。黙示録の四騎士は様々な映画やゲームなどで引用されているので、あえて説明しなくても馴染み深い方も多いかもしれませんが、この前提を踏まえて展示の様子をご覧ください。

 


 

「The Pale Horse (Monsanto)」

Monsantoは聖なる山を意味するポルトガルの地名。またはかつて存在した、アメリカの多国籍のバイオ化学メーカー。検索するといろいろ出てきますが、ベトナム戦争で使われた枯葉剤の製造メーカーでもあります。

 

 

「The Pale Horse (Trakai)」

Trakaiはリトアニアの都市。湖畔のリゾート地でもあり、カライム人、タタール人、ロシア人、ユダヤ人、ポーランド人ら異なる民族によって街が作られ、保存されてきたことが特徴です。争いや略奪の歴史があります。

 


 

「The Pale Horse (Tintagel)」

Tintagelはイギリス、コーンウォール地方のヴィレッジ。この地に所在するティンタジェル城はアーサー王所縁の城という伝承があります。廃墟となった古城は高い崖の上に建っていて荒波を見下ろすことができ、崖の下には「マーリーンズ・カッスル」と呼ばれる印象的な自然の洞窟がありますが、満潮時には水面下に沈むそうです。

 

 

「The Pale Horse (Sun-dappled Cemetery)」

映画の一幕のような、墓地に佇む蒼ざめた馬。

 


 

これが蒼ざめた馬でなければ、美しい白馬の世界紀行的な見方もできたかもしれません。括弧書きされたサブタイトルの情報と合わせてみると、「死」の気配が感じられ、美しい画面がひんやりとした不気味さを醸し出してきます。

 

「The Pale Horse (The Room)」

 

「The Pale Horse (Rooms)」


 

日本的な室内に現れると、途端にホラーですね。大島てる的な。以前ここに住んでいた人はね、、、。

 

ただ、世界紀行の馬がひょっこり身近に現れたと思うと少しユーモアも感じます。「死」とは、身近なものでもあります。

 

「The Pale Horse (Night Road)」

夜道、気をつけましょうね。


 

 

展示室の中央にある立体作品「The Pale Horse on the Sands」は砂の下に複数の電球が埋まっています。

 

 

「The Pale Horse on the Sands」


 

この電球の意味するところは何でしょうか、、、?

 

展示会場はインスタレーションを体験できる部屋があり、そちらにも行ってみました。

 

「The Pale Horse and the Red Sun」


 

電球、出てきました。

 

タイトルのRed Sunについて特別な意味があるのか調べてみました。

通常のred sun は夕日。

あとは、1971年に公開された三船敏郎とチャールズ・ブロンソン、アラン・ドロンが共演した異色の西部劇。

1990年代初頭にエクアドルで形成された小さいが暴力的なテロ組織。

韓国では催眠術師が催眠をかける時に使う言葉。

 

などでした。

 

奥には映像作品が。

 

パチっというラップ音 (?) も聞こえました。


 

さらに奥には

 


 

電球と盛り土。

 

Red Sunは素直に夕日と捉えて、沈む日が「死」を暗示するものとすれば、「The Pale Horse on the Sands」の電球は砂に埋まった「死」の地層であり、それは世界のどこかで今この時にも訪れているものということを表現しているのかもしれません。

 

ドア付きの部屋にも入ることができ、そちらは建物正面のウィンドウから見えたインスタレーション作品なのですが、その作品のみ、中での撮影が禁止されていたので (中が狭いため) 外からの画像をご覧ください。

 

「The Doom」


 

どこにでもありそうな日本的食卓に突如現れる蒼ざめた馬。テーブルに置かれた花瓶などは前述の映像の中のものと同じだったりします。

 

新型コロナという世界的に流行した感染病のために、日々死者数が報告される中、「死」は、若かろうが持病がなかろうがとても身近なものとなってしまいました。どこへでも突然現れる「死」というものの大きさ、驚き、戸惑い、そのようなものを作品から感じます。食卓にこの大きさの馬が突如現れたら、声も出せないです。

 

恐ろしくもありますが、美しく、繊細な感性で表現された展覧会でした。ぜひ、体感してみてください。

 

 

 

展示風景画像:冨安由真 個展「The Doom」


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