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感想 青山夢 個展「見えない怪獣」

 

青山夢 個展「見えない怪獣」

 

会 期:2024年4月12日(金) - 2024年5月19日(日)

時 間:水~金 12:00 - 19:00 / 土日:11:00 - 17:00 

休 廊:月、火、およびゴールデンウイーク(5月3日~5月7日)

場 所:ART FRONT GALLERY

展覧会URL:

https://www.artfrontgallery.com/exhibition/archive/2024_02/4919.html

 


 

代官山のアートフロントギャラリーで青山夢さんの個展「見えない怪獣」を観てきました。青山さんの作品を観るのは初めてです。

 

もろに怪獣らしきものが "見えている" のですが、展覧会タイトルの「見えない怪獣」とは一体何を指すのでしょうか?

 

 

 

《bat monster》

 

《bat monster》(部分)

 

《bat monster》(部分)


 

 

 

《見えない怪獣》

 

 

 

《骸骨の上に雨が降る》

 

 

 

《怪獣時計》

 

《ケルベロスの壺》


 

《Cerberus potted plant》


 

作品には厚みがあり、存在感があります。平面作品というよりは、立体作品あるいはインスタレーション作品という印象を持ちました。

 

 

 

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青山はTVアニメ版「ポケットモンスター」が放映されたのと同じ頃、平成の日本に誕生した。マンガ・アニメ・ゲームといったメディアを通して彼女が吸収したキャラクター文化は、ツルツル・スベスベした奥行きのないフラットな世界を日本にもたらし、2次元的ないし2.5次元的と言われる精神環境を現代に創造した。

 

(ART FRONT GALLERY Exhibition ページ 青山夢 個展 :見えない怪獣 時空を超えるキッチュの神話 青山夢の造形する弁証法的イメージについて 石倉敏明 (人類学者・神話学者) より抜粋)

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これを読んで「2.5次元的」という表現がしっくりきました。ここで私が感じた「2.5次元的」というのはアニメを原作としたミュージカルのことではなくて、平面には収まらない立体的な表現という意味での「2.5次元的」です。そして、引用元の石倉敏明さんの文章によると、青山さんの作品は、その「2.5次元的」なものと、さらにその先に見られる "別次元的" なものを結びつけています。

 

 

 

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しかし青山は、そのフラットな内在平面の向こうに、手塚治虫・つげ義春・諸星大二郎のマンガ、寺山修司の演劇、特撮によるウルトラマンシリーズの怪獣 (「ウルトラ怪獣」) といった、もう一つの創造の系譜を発見する。フラットな表現の奥に蠢く、混沌としたエネルギーを造形すること。

 

(ART FRONT GALLERY Exhibition ページ 青山夢 個展 :見えない怪獣 時空を超えるキッチュの神話 青山夢の造形する弁証法的イメージについて 石倉敏明 (人類学者・神話学者) より抜粋)

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全文はぜひART FRONT GALLERYさんのページで確認ください。

 

 

 

青山さんの作品が表現する「フラットな表現の奥に蠢く、混沌としたエネルギー」そして「見えない怪獣」とは何か。観ていきたいと思います。

 

作品は 2部屋 に分かれて展示されていますが、まずは 1部屋分の作品群から。

 

 

 

 

展覧会タイトル「見えない怪獣」と同じタイトルがつけられた作品は、中央にバースデーケーキが配置され、とても楽しい雰囲気を醸し出しています。

 

《見えない怪獣》

私が鑑賞した時はご家族連れも鑑賞されていて、お子さんが「これ、怪獣の顔がないんだよー!」って話していました。

 

《見えない怪獣》(部分拡大)

 

《見えない怪獣》(部分拡大)


 

《見えない怪獣》(部分拡大)

 

《見えない怪獣》(部分拡大)


 

《見えない怪獣》(部分拡大)

 

《見えない怪獣》(部分拡大)


本当だ、、、龍らしき生き物の顔がどこにも見あたらない。教えてくれてありがとう、少年、、、!

 

 

 

改めてこの作品の全体を観てみると、本から色々なもの——バースデーケーキやトカゲや蜘蛛や心臓や骸骨や蝶々や飛行機や虹——が飛び出しているように見えます。ワクワクするものやおぞましいもの等々、まるで、周辺に存在する小さなものたちを語ることで本体 = "顔の見えない龍" を浮かび上がらせる、そんな "伝承" を視覚的に表現しているように感じました。

 

 

  

《見えない怪獣》(別角度より撮影)

素材は「ポリエステル生地、綿、糸、アクリル、油彩、ベニヤ板」です。それらで表現された「2.5次元的」な膨らみからは、ベッドサイドのクッションやアイシングクッキーを連想しました。さらにそこから、子どもに物語を聞かせている場面が浮かびます。ベッドタイムにストーリーが語られる場面とか、アイシングクッキーのモチーフを巡って何気なくストーリーが語られる場面、という具合に。そのストーリーの内容は実話ともファンタジーとも受け取れるものです。

 

「顔がない」「見えない」ということがうっすらわかってきたような、、、?

 

 

 

《骸骨の上に雨が降る》

こちらの作品は巻物の形をしています。

 

《骸骨の上に雨が降る》(別角度より撮影)

この、どこかホッとする膨らみ、良いですよね。触れたくなる (触れてはいけません) 。

 

《骸骨の上に雨が降る》(部分拡大)

おや、タイトル通り、骸骨の上にだけ雨が降っています。この意味は私にはわからないのですが、この作品においても全体を飲み込もうとしている (?) 黒い怪獣の全貌は見えません。


 

 

 

《bat monster》

このサイズの蝙蝠に遭遇したら、、、絶対に腰を抜かす。そして死を意識する。しかし作品からはそんな怖さは感じられません。少しだけ「ポケットモンスター」的なかわいさがあります。

 

が。

 

 

《bat monster》(部分拡大)

これは、、、。

「見えない」どころか "見える" "見せている" ものがありますね、、、。

 

《bat monster》(部分拡大)

この作品の素材は「革、アクリル、油彩」と記載されています。この首もとのふさふさしたものは、革、ということです。そればかりか、作品全体にも革が使用されています。


 

昨今では洋服に使用される革もフェイクレザーが主流になっており、こんなところでリアルレザーやリアルファーに遭遇したのが新鮮でした。新鮮、、、いや、ひっかかるような違和感さえあります。

 

「2次元的ないし2.5次元的」どころか、ここにはリアルがある、、、?

 

 

 

もう一方の部屋の作品も観てみます。

 

 

 

《宇宙人の予言》

おおお。、、、これは、リアルファーの上に描いているのでしょうか?

 

《宇宙人の予言》(部分拡大)

素材は「毛革、アクリル、油彩」となっていました。やはり、リアルファー。


 

《monster jacket》

 

《monster jacket》(別角度より撮影)


 

《calm before the storm》

 

《calm before the storm》(部分拡大)


 

《vase for one flower》

 

《vase for one flower》(部分拡大)

素材は「発泡ウレタン、クマの足 (剥製)」です。


 

 

 

2024年の現在、リアルなファーや剥製を目にすることは珍しくなりました。以前なら、本物のファーを使ったマフラーが販売されるのを毎年のように見たし、剥製は料理店や民宿などで遭遇することもあったと記憶しています。絵を描くのに必要な筆も、ワシントン条約により動物の毛からナイロン毛に変わってきています。

 

もちろん、人間の暮らしを優先して動物を絶滅させるようなことがあってはいけません。しかし、こういった生々しい生命の痕跡がどんどん「見えなく」なっているのも事実です。

 

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今回の展覧会で青山夢が注目したのはウルトラ怪獣についてである。日本の特撮シリーズの元祖であるウルトラシリーズには当初から軍拡競争やベトナム戦争、差別などの時事を反映した作品が多い。当時の日本では世界で起きている社会問題を、ウルトラ怪獣という形で、当時の大人が戦争の反省から番組をみる未来ある子供たちに伝えていたように思える。作家は「神話とウルトラ怪獣のつくりは、非常に似ている」と話す。どちらも時代を超えて人間の営みの中で起きた問題を象徴化し、目に見える形にして、人々に伝えている部分だという。彼女はこの形式をモチーフに、現代にはどんな怪獣がいるのだろうと考えた。

 

(ART FRONT GALLERY Exhibition ページ 青山夢 個展 :見えない怪獣 より抜粋)

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ART FRONT GALLERYさんのページにも掲載されていたスペシャルトークイベントの動画を、この感想記事をあらかた書いた後から拝見したのですが、現代の怪獣として、例えば《bat monster》は新型コロナを表現しているということがわかりました。

 

その他「見えない怪獣」「フラットな表現の奥に蠢く、混沌としたエネルギー」を解く鍵となるお話が公開されています↓

 

ウルトラ怪獣からは少し脱線するかもしれませんが、先日、映画『ゴジラ-1.0』を観ました。ゴジラは何故ここまで人気があるのでしょう? 初期のゴジラは、水爆実験により生まれた怪獣、という設定から「人間が生み出した恐怖の象徴」として描かれました。人間が生み出した怪獣は、人間の世界に多大な犠牲を強いる災いとなり、人間の力で乗り越えなければならない試練として君臨します。そして、作品によっては人類の味方として別の怪獣を倒してくれる頼もしい存在にもなります。ゴジラとは "祟り神" なのです。 "祟り神" とは、恩恵を受けるも災厄がふりかかるも信仰次第とされる御霊信仰 (ごりょうしんこう) に通じる概念です。平時には恩恵とも言える風光明媚な自然を誇りながら、火山国であるがゆえに地震をはじめとした恐ろしい災厄と常に隣り合わせでいる日本において、この "祟り神" の概念が生まれたのは納得がいきます。

 

映画『ゴジラ-1.0』においても、ラストには少しばかり不穏な要素が盛り込まれていました。ゴジラが単に災いをもたらすものであるならば、徹底的に滅ぼすことがハッピーエンドになるわけですが、そうはならない。ゴジラは何度でも蘇る必要があるのです。これは、続編を作るため、という興行的な理由だけではない、と私は思っています。

 

長い年月における進化というものを考えた時に、破壊というものは必要不可欠な要素です。世界は偶然の連続です。偶然ということは予測不可能、ということです。”今の” 私たちが良いと思うもの、最善と思うもの、最適と思うものも、一瞬でひっくり返る可能性があります。全てが "規範" に則していたら絶滅する危険があるのです。長く "良い" とされたものも、どこかで壊さなければならない。とても辛いことではありますが、形あるものは壊され、また新しく作られる。私たち自身も、不老不死の存在になってはたちまち停滞してしまうでしょう。そうした破壊をゴジラは請け負ってくれます。ゴジラは忖度しません。分別なく街や人を破壊し、何度でも蘇る "祟り神" なのです。

 

私たちが今、生きているということには、どこかで何かが破壊されたという事実が必ず伴っています。

 

リアルな革が「見えなく」なった現代では、その事実もとても「見えなく」なっています。

 

私の個人的な解釈ですが、本展の「見えない怪獣」「フラットな表現の奥に蠢く、混沌としたエネルギー」というものの正体は、この "破壊" = "祟り神" のことです。

 

子どもたちに語られるストーリーには、心躍らせる楽しさと、説明のつかない理不尽さがあるものです。そのようにして "祟り神" の概念は、はっきりした形を持たず受け継がれてきました。

 

 

 

《Battle in the Vortex》

素材は「革、アクリル、油彩」です。

 

 

 

《Battle in the Vortex》(部分拡大)

 

《Battle in the Vortex》(部分拡大)


 

《Battle in the Vortex》(部分拡大)

 

《Battle in the Vortex》(部分拡大)


 

 

 

子どもに "破壊" やら "祟り神" やらというと過激な気もしますが、前述の、作品の中の龍に「顔がない」ことを知らせてくれた男の子は、蜘蛛やトカゲや骸骨の描写を見つけては楽しそうにしていました。ゾワゾワするもの、ちょっとコワいものって、、、ワクワクするんですよね、わかります。子どもこそ、生物としての本能に素直なのかもしれません。もちろん、本展は子どものみを対象にしたものではありません。むしろ「ツルツル・スベスベした奥行きのないフラットな世界」に慣れてしまった大人に向けてのメッセージ、と受け取ることもできます。

 

 

 

 

 

 

《Everyday life and threats》

 

 

 

《Fayyn》


 

 

 

《Shepherd Dog's Birthday》

 

スペシャルトーク内でもお話がありましたが、これらの作品群は実物を見るととても厚みがあり、描きにくい支持体が用いられていることがわかります。そして、描きにくい支持体には ”偶然” が入り込む余地が生まれます。このことからも、世界が "偶然" の連続であり、だからこそ、規範を超えるための "祟り神” は何度でも甦る、と繋がっていくようです。

 

 

《Sunday》

 

《鶴》


 

《Spring Sun》


 

 

 

《怪獣の花瓶》

 

 

 

描かれたモチーフだけでなく素材からも色々な意味が読み取れる展覧会でした。

 

実際の作品鑑賞では、支持体や描画材そのものを見ることができるだけでなく、作家の筆使いや手作業の跡、息づかいが感じられることが魅力だと思います。ぜひ、足を運んでみてください。

 

 

 

 

 

展示風景画像:青山夢 個展「見えない怪獣」ART FRONT GALLERY, 2024


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