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感想 吉澤舞子 個展「アトラスを開く」

 

吉澤舞子 個展「アトラスを開く」

 

 

会 期:2022年1月15日(土) - 2022年1月29日(土)

時 間:11:00-19:00

休 廊:日

場 所:ギャラリーQ

展覧会URL:

https://www.instagram.com/p/CYteu7DvaO5/


 

最近、SNSで情報を得ることが多いのですが、この吉澤舞子さんの個展もそうでした。ご本人からの発信には「気軽にお越しくださいとも言いづらい状況ですが、、この作品はこの場限りで、今後展示することが恐らくもうないので」とあり、大小様々な大きさの作品が障屏画のようなレイアウトで展示されている画像が共にありました。この、場所あっての展示スタイルは確かに2度観られる機会がないものかと思い、また、流れるようなレイアウトに山水画のようなものも感じ取り、観に行ってきました。

 


 

吉澤舞子さんは1987年生まれ、多摩美術大学大学院美術研究科博士前期課程絵画専攻日本画研究領域、修了。数々の個展、グループ展にて作品を発表されています。トレーディングカードゲーム「マジック:ザ・ギャザリング」の関係者がインターネットで吉澤さんの作品を見たことがきっかけで、2021年4月発売の最新セット「ストリクスヘイヴン:魔法学院」日本画カード「審判の日」の作画に繋がるなど、日本画をベースにグラフィティの要素も垣間見られるような、動的な流れを思わせる構図が魅力の作家です。

 

「春の獣」

 

「いてびと」


 

ご本人が在廊されていて、お話を伺うことができました。

 

今回のテーマの一つはなんとRPG。新型コロナウィルスに人類が翻弄され始めてから早2年。その間に私たちは色々な「コロナ禍で生きていくために必要な事物」を手に入れてきた、と吉澤さんは分析します。例えば、ソーシャルディスタンスであったり、助け合いであったり、リモートでしか繋がれない状況を快適にするためのアプリであったり。

 

それらの事物をRPGのアイテムに、このコロナ禍の状況をダンジョンのように見立て、壁一面に作品が展示されています。

上:「こよみ」 下:「月が綺麗ですね」


上左:「折れない旗」 上中央:「よい子の乗り物」

下中央:「はしご (大) 」 下右:「のろし (大) 」

「よい子の乗り物」には本や、デリバリーアプリ、ストリーミングアプリなどをもじったものが乗っています。

 

左から「ポーション」「盾」「剣だったもの」「弓矢だったもの」

RPGらしいアイテムたち。剣や弓矢が「だったもの」となっているのは、行き場のない怒りなどの感情の矛先を見失っていることを表しています。一方で、盾は身を守るものとして必要不可欠であり、通常では隠しがちな「心」を拠り所として、あえて表に出すことで守るという表現になっています。レッドブルぽいものが「ポーション」というのは、ユーモアに溢れていますね。


 

上右:「希望」

下左:「Good Night」 下中央:「どこでもボイス」

「Good Night」は、伝える口に、閉じた瞼のようなまつ毛が描かれています。

 

上中央:「丸窓」

中段左:「窓」 中段右:「器づくり」

下右:「開いた窓」


左:「鍵」 右:「ラスボス」

「ラスボス」には丸いミラーがついています。

 

「湯元」


「無敵モード」


 

これらのアイテムを集めた先に、巨大な作品があります。

 

「青き囀ずりと共に」

この「青き囀ずり」というのはTwitterの鳥のマークから。吉澤さんは一時期Twitterを見ることができない状態になったそうです。私個人も、なんとなく殺伐とした、または、優等生の発言や説教くさい (?) 発言ばかりが増えた (ように思う) 最近のTwitterには、戦闘体制でないと臨めない雰囲気を感じることがあります。そういった、抱えきれなくなったもやもやを、作品に抱きかかえてもらって飛ばしてしまおうという、ある種の解放、浄化を意図する作品です。


多くのトリを引き連れて、または、トリに導かれて、画面は右から左へと進んでいきます。

左から:「ハミングバード」「メヂカラのトリ」「マジックアワーのトリ」「夜空のトリ」


本展のタイトル「アトラスを開く」は、アトラス=地図を開くという意味があります。地図とは、RPGのダンジョンの地図という意味もありますが、『江戸の身体を開く』を著した日本美術史家のタイモン・スクリーチが解説する17世紀中国の拓本「無極内経図」の意味もあるそうです。「内経図」とは、気を養い性命を内側から鍛練する中国の伝統的修行体系である内丹術を補助するために作られたと考えられているもので、一見、山水画のようにも見えますが人体の経絡の要所を表しています。

 

吉澤さんの作品の背景にも山水画のような背景が描かれています。

 

 

私が本展に山水画のようなものを感じたと言ったのは、背景の影響もあったのかも知れませんが、「山水画の流れるレイアウトを辿ると一種のトランス状態になる」という話を聞いたことがありまして、トランス状態ではなくても、この展示の流れに気分を高揚させるような心地よさを感じたからです。

 

新型コロナが原因で在外研修の延期を余儀なくされるなど、公私共に大きく影響を受けた吉澤さんが、前述の「マジック:ザ・ギャザリング」の仕事などを経て、新たな作品の構想を手繰る中で出会ったのが人体の山水画「無極内経図」であり、それは気の流れに関係している。

 

身体では、吉澤さんは手や足が印象的な作品を多く描かれていて「矛盾の手、本能の足」という位置付けで使われています。時に手は矛盾していて、愛でることも、意に反して暴力を振るうこともできる。また現代では、スマホやPC操作を通して、指先一つで様々なことが可能になっています。矛盾を出せるほど手は器用であり、一方、不意に立ち止まるなど、足には素が出やすい。

「乱反射の鶏」


「夜に啼く」

「Adams」


 会場には2018年に制作された「Dear Puzzle」の一つも展示されており、円を形成していた一部分が個として独立し、また、「アトラスを開く」の一部分にもなっているような見方もできます。

 

上「Dear Puzzle」(一部) 下:「雨あそびのトリ」

会場内のファイルより。


 

神話やアミニズムにも関心がある吉澤さん。彼女独自の神話として現代のダンジョンとアイテムで構成された本展は、浄化からまた次へと飛び立っていく流れが感じられる展示でした。

 

この2年の間に私たちは少なからず負の感情を持たされています。トラウマ等からの解放として作品が制作されることはあり、その作品の鑑賞体験が観る側の心を癒すこともあります。吉澤さんが作るアイテムの数々は人々の祈りであり、お守りです。展示をきっかけに自分を労わってみるのもいかがでしょうか。

 

 

展示風景画像:吉澤舞子 個展「アトラスを開く」


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