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感想 RYO TOMIE solo exhibition "PARADISE ARRANGEMENT"

 

RYO TOMIE solo exhibition

"PARADISE ARRANGEMENT"

 

会 期:2022年8月16日(火) - 2022年9月4日(日)

時 間:14時-20時

休 廊:月

場 所:ヘルツアートラボ

展覧会URL:

https://hertz-art-lab.weebly.com/11-ryo-tomie.html


 

RYO TOMIEさんは1991年生まれ、多摩美術大学大学院絵画専攻油画研究領域終了。幼少期をフランスと日本で過ごすという経験から「越境」をテーマに、自身のアイデンティティのねじれそのものをスタイル化する作品を制作しています。西洋のフランスから見たアジアの日本、日本から見た西洋、その両方からの視点を経験すると、どんな世界が見えてくるのでしょうか。また「越境」には、西洋とアジアの境だけでなく、個人的なものと普遍的なものの境を越える、という試みも含まれています。本展「PARADISE ARRANGEMENT」は、アレンジメントという言葉にも表れているように、フラワーアレンジメント ≒ 活け花というキーワードがあり、当初は花をモチーフとして持ち込むことが想定されていたそうですが、絵の具を置く行為、立体を配する行為、その他TOMIEさんが制作する行為の中に「活ける」という行為そのものが見出され、その「活ける行為」を通して個人の経験から普遍的なものへの「越境」を試みた展示となっています。

 

会場に入ってすぐの場所には立体作品。

 

中央:「CLOUD 062522」(非売)

月のような、部分日食の太陽のような。世界を見守る存在のようです。

 

中央:「CLOUD 062522」(別角度より撮影)

色々な角度から見たくなる。


 

左:「CLOUD 070722」 右:「CLOUD 062922」

色々な雲。

 

奥:「CLOUD 070322」

中央奥:「CLOUD 070822」

中央右:「IKEBANA 070222」

手前左:「CLOUD 070622」

白い雲のような台は洲浜台 (すはまだい) からインスピレーションを受けたもの。洲浜台は洲のある浜をかたどった台で、遡ると平安時代の歌合わせで和歌が書かれた短冊を置いた台、とされてます。俗世を離れた仙境がイメージされており、季節の料理や飾り物を置くなどして、めでたい宴には欠かせないものでした。


 

 

左より:「BORDER 062122」「BORDER 060922」「BORDER 062022」「ICON 062322」

 

「BORDER 060922」

なんとなく黄緑の絵の具が蛇のように見えます。聖書の楽園追放のエピソードで、イヴをそそのかしてリンゴを食べさせた蛇、のようなイメージ。

 

「ICON 062322」

イコンといえば、キリストの肖像を連想します。中央下に見える白い人のような形は十字架から降ろされるキリストかな、と予想したり。会場でTOMIEさんのアーカイブファイルを見せてもらったのですが、過去作にルーベンスの「キリスト降架」から描かれた作品があったのでよりそう感じるのかも。伝統的な西洋のモチーフと思わせながらも左上に太陽っぽいものが見えたりと、何かアップデートされている感じが伝わって来ます。エヴァンゲリオンのリリス? にも似てる。

 

 


 

「PARADISE 070122」

地球の様な、シャボン玉のような丸。楽園の感じが伝わってくる。油絵の具で描かれていますが、筆跡や色など、どこか日本画の雰囲気もあります。

 

「PARADISE 070122」(部分拡大)

「心」って読んじゃいました。心の中にある楽園?


 

「MASK 051122」

 

「IKERU MASK」


ひょっとこです。会場で手にしたプリントの「展覧会に寄せて」の中で、TOMIEさんはひょっとこを「喜劇と悲劇の二面性を内包した」ものと言及しています。ひょっとこは喜劇に使われるイメージですが、その由来は諸説あり、その一つに、山の穴を塞いだことから謎の美女と翁にお礼としてヘソから金を産む童をもらった爺さんの話があります。この童は欲張りな婆さんにヘソを突かれ過ぎて死んでしまうのですが、悲しむ爺さんの夢枕に立って、自分の顔に似た面を作って竈の前の柱に掛ければ家が栄える、と告げます。その童「ひょうとく」の面がひょっとこになったという説です。そんな悲しい話もあるひょっとこ。

 

喜劇と悲劇が表裏一体で、その越境を表していると思うと、何か、人生そのものを考えてしまう、、、。

 

 

「Expelled from Paradise 052622」

木は、生命の木や世界樹など、諸神話に見られるモチーフです。タイトルの「Expelled from Paradise」は、「楽園追放」の意味。

 


「Expelled from Paradise 052622」(部分拡大)

太陽。


「Expelled from Paradise 052622」(部分拡大)

目もあります。神秘的なモチーフが色々散りばめられています。


 

 

「Expelled from Paradise 060222」

こちらの作品の画面下部には人の様なモチーフも見られます。追放されたアダムとイヴでしょうか?

 

「Expelled from Paradise 060222」(部分拡大)

 

「Expelled from Paradise 060222」(部分拡大)


 

「Expelled from Paradise 060222」(部分拡大)

リンゴ。

 

「Expelled from Paradise 060222」(部分拡大)

魚。


 

鮮やかな色彩と勢い、一見して脈絡のない、夢でも見ているかのような画面構成の中に、自然と神秘的な意味を探ろうとしてしまいます、、、。目はエジプト神話のホルスの目、とか、魚はキリストの隠れシンボルとか。それらのシンボルが木に接しているので、人間が潜在的に持っている普遍的なイメージが分岐して枝分かれしていった様子を表しているようにも思える。元々一つの楽園にあったものが散り散りになった、追放された、とも読めそうです。

 

 

「BORDER 061622」

「越境」ということで、山のモチーフも多く描かれています。

 

「BORDER 062522」

油彩による綺麗なグラデーション。


 

上:「BORDER 062222」

下左から:「BORDER 060822」「OCEAN SUN」「BORDER 060722」

 

「BORDER 062222」

山。

 

「BORDER 062222」(部分拡大)

パラマウント。映画の始まりに出てくるパラマウント・ピクチャーズの画面を思い出します。パラマウント・ピクチャーズのロゴ、で調べてみると、山のモデルは定かではないようで諸説あり、空想上の山と言えなくもない。

 


 

「IKEBANA 081322」


 

中央:「PARADISE ARRANGEMENT」 右:「CLOUD 070122」

大きい中央の花器に植物が活けられているように見えます。世界が生まれるようなパワーを感じる。

 

「PARADISE ARRANGEMENT」 (部分拡大)

花器の中に十二支が描かれています。思えば十二支の意味するものは広く、年度や時刻、方角なども含まれます。

 

「PARADISE ARRANGEMENT」 (部分拡大)

この作品の中にも様々なモチーフがあります。背景の雷の様なものも、中央の花器に活けられた植物とリンクしている。部分的に雨も降っているようです。天地創造の瞬間、という感じがしました。


 

「CLOUD 070122」

天地創造をしている神様でしょうか? 人の様にも、天使のようにも見える。


 

「LEO TRIPLET 071022」

こちらの作品は一転して静かな夜空です。「LEO TRIPLET」とは「しし座の三つ子銀河」のことを言うそうです。しし座に3つも銀河があるとは知りませんでした。作品タイトルの数字は日付を表していて、こちらの「LEO TRIPLET 071022」は2022年7月10日完成という意味なので、展示作品の中では比較的新しい作品になります。

 

「3」という数は本展の中でキーになっているようで、はじめに見た洲浜台の立体作品も足が三つになっています。「3」は確かに色々なところに出てくる数字で、キリスト教でも三位一体というのがありますし、私たちの認識している世界も三次元と言われています。

 

「CLOUD 070922」

よく観ると獅子が描かれている、、、?

 

「CLOUD 070922」(部分拡大)


 

「LEO TRIPLET 062422」

こちらも「しし座の三つ子銀河」。3つの銀河にも個性がありそうですね。

 

「LEO TRIPLET 062422」(別角度より撮影)

画像では伝わりにくいのですが、油彩の厚塗りで地の方も盛り上がっています。また、「LEO TRIPLET」の2作品には「I Love Ü」の文字が。「Ü」はドイツ語などで使われる表記ですが、笑顔の顔文字にも見えます。この2作品からはロマンティックな感じを受けます。


 

「ODORU」

ロマンティックな「LEO TRIPLET」の間に展示されているこちらの作品は、打って変わってエネルギーに満ち溢れているようです。踊りから生まれるエネルギーでしょうか? 人々が集まって踊ることには、強力な力が宿るという話を聞いたことがあります。そう言えばお祭りには踊りが欠かせなかったりしますね。

 

そしてなんと、この作品の地の部分には「踊」の文字が書かれているんだそうです! 会場のヘルツアートラボさんの縁で書道家の近藤朱鳳さんとTOMIEさんが意気投合し、本作品が完成しました。

 

「ODORU」(部分拡大)

なんとなく、文字が見える様な、見えない様な、、、?

 

「ODORU」(部分拡大)

踊っている人影は見える。


 

 

 

 

会場には民族音楽のような不思議なBGMが流れており、その音は映像作品「IKERU」から流れてくるものでした。

 

「IKERU」(非売) (映像作品の一部を掲載)

タイトルの文字にもTOMIEさんの作品に共通する「らしさ」が出ています。不思議な音楽はYoshiaki Orikasaさんによるもの。TOMIEさんとOrikasaさんによるパフォーマンスも8月20日(終了)と9月3日に予定されています。詳細はヘルツアートラボさんのインスタグラム等をご確認ください。

 

「IKERU」(非売) (映像作品の一部を掲載)

出ました、ひょっとこ。こちらのビデオインスタレーションには、耕す、育てる、収穫する、の3つの場面があります。そのものズバリの動作ではなく、ちょっと考えさせられるような場面です。ぜひ会場で鑑賞して欲しい。


 

ビデオインスタレーションの周りには、耕す、育てる、収穫する、に当てはまる様な「Plow rhythm」「Grow up Sound」「Harvest Dance」というタイトルの作品があります。耕すリズムと育つ音があって、収穫の踊りに繋がっていくのか、なるほど。

 

「Plow rhythm」

 

「Grow up Sound」


 

「Harvest Dance」

 

「Harvest Dance」(部分拡大)

木製の枠にちょっと「いる」木や動物の飾りにも注目です。これは踊っている人かな。


 

「IKEBANA 081222」

この風船、ビデオインスタレーションの中に出てきます。


 

「活け花」のキーワードをあらかじめ知っていると「IKERU」は「花をいける」の意味と捉えて観ていましたが、「生きとし生けるもの」と言った場合の「生ける」の意味も含んでいるのではないかと思いました。「生きる」という意志により「生きる」ために行動するが、収穫という自然の恵みは必ずしも人間の思惑通りにいかないもの、「生かされている」という意味も含むような「生ける」。

 

 

 

以上、一つ一つの作品のパワーも凄いですが、空間全体に没入してしまうような展覧会でした。この展示を観ながら、世界中の宗教観を広く捉えてみると意外な部分で共通項があるように思います。実際、西洋やアジア、個や全体といった境がない普遍的なものは存在するんじゃないでしょうか。自分にとってのパラダイスはどんなイメージか、再構築してみて、TOMIEさんの作品と比較してみるのも面白いかもしれません。けっこう共通している部分が多かったりして。ぜひ、足を運んでみてください。

 

 

展示風景画像:RYO TOMIE solo exhibition "PARADISE ARRANGEMENT"


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