· 

感想 新正春 個展「肌が触れ合う際に発生する斥力について」

 

新正春 個展「肌が触れ合う際に発生する斥力について」

 

 

会 期:2022年8月27日(土) - 2022年9月19日(月祝)

時 間:12時-19時

休 廊:水木、9月6日

場 所:PAGIC Gallery

展覧会URL:

https://pagicgallery.com/masaharushin2022/

 


 

新正春さんは1996年生まれ。京都芸術⼤学⼤学院修⼠課程美術⼯芸領域油画分野修了。本展は、2021年の11月にPAGIC Galleryさんで開催された個展「肌が触れ合う際に発生する斥力について」に続き、自身の作品の「可愛さ」の部分を意識的に打ち出した個展です。新さんは、2021年12月29日 - 2022年1月12日に銀座蔦屋書店で開催された企画展「Up_02」にて発表されたような、金や銀などメタリックなカラーを基調とした、「かっこいい」感じを受ける作風でも知られています。この印象の振れ幅も魅力的です。

 

※以下の展示風景画像は「Up_02」銀座蔦屋書店 のものです。

かっこいい、クールといった印象を受けます。


 

 

 

本展「肌が触れ合う際に発生する斥力について」では、「可愛い」というキーワードと共に、2021年の同名タイトルの個展から続く「壊れたものを懐かしむエモさ」から発展したイメージを盛り込んだ作品が並びます。PAGIC Galleryさんの展覧会ページに掲載されているメインイメージには、レトロな印象のあるキッチンに作品が飾られている風景が採用されており、これは新さんの、台所での炊事という日常においても制作のことやアートについて考えを巡らしていた自分にふと気づいた、というエピソードに由来するものです。その場面を作品に昇華したような、タイルを用いた作品がありました。

 

 

展示風景画像:新正春 個展「肌が触れ合う際に発生する斥力について」

 

「肌が触れ合う際に発生する斥力について」

タイルの目地はパラフィン、タイルを覆うツヤのある透明な画材はレジンです。キッチンにいる時、何かイメージがふっと横切るような、半分夢の中の様な、そんな場面が伝わってきます。

 

「肌が触れ合う際に発生する斥力について」(部分拡大)

横から見ると、目地とタイル、スマホケースの立体感がよく分かります。夏の和菓子のようで目に涼しい。


 

「肌が触れ合う際に発生する斥力について」

和風な柄の布に思い出の断片のような風景写真が散りばめられている。

 

「肌が触れ合う際に発生する斥力について」(部分拡大)

JUNGLEと書いてあります。鶴とJUNGLE、キッチンが不思議と調和している。頭の中にふっと浮かぶイメージたちの、瞬間のような、流れのような感覚でしょうか。


 

「斥力 feat. FILL,more」

ある人の感想で「藻にまみれたマンボウ」というようなニュアンスの感想があったそうですが、それを聞いちゃうと、もうそれにしか見えないですね笑。清涼感を感じる作品。

 

「斥力 feat. FILL,more」(部分拡大)

作品タイトル中の「FILL,more」は新さんのご友人のアパレルブランド。作品には年代物の花柄の布が使用されているのかと思いましたが、よく観ると花が溶けて融合しているような不思議な柄です。こちらは「FILL,more」で使用されているオリジナルの布、とのこと。新さんの世界観に溶け込んでいて、個性もある。人と人が触れ合う際には微かに反発する力 = 斥力 が発生している、というテーマそのものを強く感じました。


 

「肌が触れ合う際に発生する斥力について」

こちらの作品は「肌が触れ合う際」だけでなく、物と物、手による作業と脳内の思い出、観て右脳で感じるものと左脳で読むもの、など、色々なものが触れ合う際の「斥力」について考えてさせられた作品です。

 

「肌が触れ合う際に発生する斥力について」(部分拡大)

木と布、布と布、布と紙、紙と紙、紙と画材、、、。

 

「肌が触れ合う際に発生する斥力について」(部分拡大)


 

「肌が触れ合う際に発生する斥力について」(部分拡大)

 

「肌が触れ合う際に発生する斥力について」(部分拡大)

WATERと書かれています。


 

反発する力が発生するということは、少なくとも接点があるということ。完全に混ざり合わずに独立しながらも遠く離れたものでもない。「エモい」「可愛い」という、人それぞれによって解釈が変わってくる様な、定義できない曖昧な感情は、紐解くとこういう姿をしているのかも知れないな、

 

 

展示風景画像:新正春 個展「肌が触れ合う際に発生する斥力について」

 

「肌が触れ合う際に発生する斥力について」

「可愛い」部分にはなかなか用いられなかった黒という色にも挑戦されています。

 

「肌が触れ合う際に発生する斥力について」(部分拡大)

温もりを感じる様な布地も樹脂が染み込むとアスファルトのような質感に見えてくる。でも続いた一枚の布。そして触れ合っている部分は斥力が発生していそう。「かっこいい」と「可愛い」の境界。


 

「肌が触れ合う際に発生する斥力について」

こちらも樹脂で固まった布地が、全く違う見た目になっていて面白い。

 

「肌が触れ合う際に発生する斥力について」(部分拡大)

SCISSORS、ハサミと書いてあります。ハサミで布をチョキチョキ。ただの単語だけど、布がカットされた形状から動作を想像出来る。


 

「肌が触れ合う際に発生する斥力について」

 

「肌が触れ合う際に発生する斥力について」(部分拡大)

重なりを味わう。


 

「斥力 feat. FILL,more」

 

「斥力 feat. FILL,more」(部分拡大)


 

「肌が触れ合う際に発生する斥力について」

 

「肌が触れ合う際に発生する斥力について」(部分拡大)

WATERの文字が分割されています。単語は分割すると意味がなくなったり違う意味になったりしますが、水は分割しても水。分割された単語もこのように近くにあると、元の姿が分かって水みたいに漂っている気もする。左脳で読んだ文字を右脳で感じられる。


 

「肌が触れ合う際に発生する斥力について」

 

「肌が触れ合う際に発生する斥力について」(部分拡大)

描かれた線と、線としての糸。


 

 

展示風景画像:新正春 個展「肌が触れ合う際に発生する斥力について」

 

額に入ったシリーズは黒に近い濃い色が用いられ、「かっこいい」と「可愛い」の間にあるような、新しい斥力を感じさせるシリーズでした。

 

「肌が触れ合う際に発生する斥力について」

 

「肌が触れ合う際に発生する斥力について」


 

「肌が触れ合う際に発生する斥力について」


 

 

前回の2021年の展示「肌が触れ合う際に発生する斥力について」でも、「懐かしさを想起させるレシピを設計してつくった仕掛け」ということが言われていました。本展の作品群からは、その仕掛けとしての機能をより強く感じました。「懐かしい」「エモい」「かっこいい」「可愛い」等の感情は、同質の塊から発せられるものではなくて、接点を持った時に意識できないほど僅かな反発力 = 斥力を発生させる異質なものたちによって、もたらされる感情であるということ。なるほど。私の中でストンと理解出来たような気がします。感情が湧く仕組みを分解している。「感情のキュビズム」を試みている、と言ってよいのかしら。

 

 

 

「肌が触れ合う際に発生する斥力について」

隠れたところにある作品。こちらはギャラリーの方に見せてもらいましょう。

色の印象からか、大人な雰囲気、「かっこいい」とも感じますが、ラズベリームースのような質感から甘さや「可愛さ」も連想出来るし、貼られた写真から懐かしさも感じることが可能。これらの斥力はなかなか奥深いものがあります。あれか、大人になってから学生時代を振り返った時の甘酸っぱい感じかな (そんな素敵な思い出あったっけ? いや、あったはず)


 

 

何かの感情を想起させる仕掛け。他の作家さん含め、多くの作品が目指しているところはそこなのかな、と気付かされながらも、その仕組みを意識的に見せてくれているところが新さんの作品の魅力であるよな、と思いました。このように分析可能ですが、本展の作品群をぱっと見て「可愛い」が私の脳裏にすっと入ってきた点も説得力があります。そこから「可愛い」と感じたのは色? 布地の柄? 写真の風景? 質感? それらの組み合わせが醸し出す雰囲気? というように進んでいける。

 

画像では伝えきれない材質そのもののツヤや質感も重要な要素なので、ぜひ実物を観て欲しいです。そして、個々人に浮かぶ第一印象が重要な作品群。ぜひ、足を運んでみてください。


関連記事