新正春 個展
「肌が触れ合う際に発生する斥力について」
会 期:2021年11月5日(金) - 11月23日(火)
時 間:12時-19時
休 廊:水木
場 所:PAGIC Gallery
展覧会URL:
https://pagicgallery.com/masaharushin-repulsiveforce-jp/
「エモい」という言葉を最近よくきくようになりました。個人的には馴染みのある言葉です。
2013年7月に一度閉店した横浜のタワーレコード(モアーズ店)に、ハードコアの中にメロディアスな旋律をもつエモーショナル・ハードコアというジャンルの海外盤を集めた、通称「エモ柱」なるコーナーがあり、耳の確かな店員さんが名盤をお薦めしていて、ハズレなしの素晴らしい柱でした。柱といっても鬼滅ではありません。
この場合の「エモ」は、激しめの演奏とは裏腹にメロディアスな旋律が切ない感情を呼び起こす現象を表していまして、該当バンドや楽曲自体を「エモい」と評したりしました。日本で90年代に流行ったメロコア(メロディック・ハードコア)にも近かったりします。
しかし、最近、主に若い人に使われている「エモい」は意味が違うようです。人気なさそうだもんな「エモ」。
こちらの新正春さんの展示には、「懐かしさ」を想起させるレシピを設計してつくった仕掛け、というテーマがあります。PAGIC Galleryの金子夏季さんに、作品について色々と伺うことができました。「懐かしさ」を想起させる仕掛けを考えた時、最近の「エモい」には特にエモーショナル(感情的)な意味はそれほど含まれていないと新さんは分析します。本来の意味で言うと、何とも言い表せない感情の変化をいうはずですが、昭和風な何か、やレトロなものに触れた時などに淡々と「あれ、エモいよね」と評したりする、ということです。なるほど。
「肌が触れ合う際に発生する斥力について#.03」
「肌が触れ合う際に発生する斥力について#.03」部分拡大
「PARAFFIN#.02」
「PARAFFIN#.02」部分拡大
展示風景
「PARAFFIN#.07」部分拡大
「PARAFFIN#.06」
全体的に作品を捉えた時は平面構成がバチっと決まったクールな作品と思っていたのですが、使用されている布はどこかレトロであることに気づきます。こちらの布地は、PAGIC Galleryが元は倉庫だった場所をリノベーションしてできたということが関係していて、金子さんの祖父が電気屋、曽祖父が洋服屋を営んでいらした場所だそうです。曽祖父の時代は化学繊維が出始めたころで、曽祖母が布の端切れを取って置かれていてその中からセレクトされました。当時のメーカー名や製品情報、業務的なメモがそのまま布地に残っています。
カラーがレイヤードされた部分はパラフィンやレジンを使用していて、写真、方眼紙などが透けて見える部分もあります。
「REZIN#.01」
「REZIN#.01」部分拡大
「PARAFFIN#.05」
「PARAFFIN#.01」
使用されている写真は、新さんの作品がHotel Anteroom Nahaに展示された際に沖縄で撮影したものだそうで、シャッターを切る時の基準となる感情の閾値をさげ、少しでも何かひっかかるものがあれば撮影したというもの。具体的に何かが写っているというわけではなく説明的ではありません。鑑賞者が感じ取るような仕掛けになっています。
また、以下の3作品は展示タイトルと同じタイトルがついています。タイトルの言葉の意味を要約しますと、<例えば手と手が触れ合う際には反発する力が働き、融合するわけではない。触っているようで反発している。とはいえ日常においてそういう意識をしているわけではなく、日頃あまり気にしていない部分にフォーカスすることでじんわりと感じてもらうことが狙い> ということです。
「肌が触れ合う際に発生する斥力について#.01」
「肌が触れ合う際に発生する斥力について#.02」
「肌が触れ合う際に発生する斥力について#.03」
大判のチェックの布地がストールを連想させ、温もりや優しい気持ちを想起させますが、人の肌と肌が触れ合う時は実は反発しあっているんですね。エモい。
この展示のキモは鑑賞者への働きかけ方にあると思いました。「懐かしさ」を想起させる装置、ときいたらもっとわかりやすい図柄やアイコンがある、たとえば「ALWAYS 三丁目の夕日」のような世界観です。ですが、一見わかりやすいものは見方を変えると「エモくなれ」「エモが正解だ」と鑑賞者の側に押し付けるものとなってしまいます。展覧会のリリースには、新さんが「現代アートがいかに経験や記号といった人間のルールを探索し、表現によってその既成概念を壊すかに興味を持っている」とあります。「懐かしさ」は各個人それぞれちがった種類があります。自分が「エモい」となるのか、はたまた、全く違う感情が呼び起こされるのか、ぜひ確かめに行ってみてください。
また、今回の作品の中で、ある現代アーティストをリスペクトして意識的に使っている色がキーカラーとなっているものもあります。同じ作家が好きな人ならピンときて、分かり合えること間違いなし!
リミックスされたようなカッコよさがあるので、弊サイトのジャンルはTECHNOです。
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