· 

感想 大塚文香 個展「plants vegetable vase」

 

大塚文香 個展「plants vegetable vase」

 

会 期:2021年11月19日(金) - 12月5日(日)

時 間:13時-18時

休 廊:火

場 所:デッサン | dessin

展覧会URL:

https://dessinweb.jp/hpgen/HPB/entries/140.html

 


 

今回はイラストレーターの方の展示のご紹介です。大塚文香さんは京都精華大学デザイン学部卒業、2020年HB Gallery File Competition vol.30 永井裕明賞を受賞、書籍や雑誌『& Premium』『リンネル』などのイラストレーションを手掛けていらっしゃいます。

 

イラストレーターの方の展覧会はプレスリリースやステートメントがないことがほとんどで、今回の展示も「植物をモチーフにレーザープリンタを用いて制作した作品」という前情報のみで拝見しました。

 

展示は古書店の2階です。



 

植物の学名やアルファベット、数字などもアクセントとなった魅力的な絵です。でもなんで原画じゃないんだろう、と浅はかに思っていました。そうです、私が浅はかだったのです。

 


 

この辺りから、あれ?目に乱視が入ったかな?と違和感に気づくように。

 


 

網点、が。

 

もう一度初めのほうの花の絵をじっくりみてみると

 


 

蕾や雄しべにも、ズレが見られます。

 

「レーザープリンタを用いて制作した」とは、そうです、色別の版をPC上で作成し何回かに分けて重ねるようにレーザー印刷した版画作品ということでした。作品はよく見て、日本語もちゃんと読まないと、ですね。

 

この展覧会の前に藤本正平さんの展示を拝見していて、レーザー印刷のつるっとした感触が個人的にはインクジェットよりも好みだなと思っていたところでした。柔らかい印象の作品でありながら、一般的にはエッジの効いた表現向きというレーザー印刷を選び、版画という手法を用いる大塚さんの作品に、一筋縄ではいかない魅力を感じます。作品は裏にサインとエディションが入っていることからも、間違いなく版画作品と言えるでしょう。「Abelmoschus manihot Medik. トロロアオイ」「Phlox subulata. シバザクラ」「Tillandsia caput-medusae E. Morr. チランジア・カプトメドゥーサエ」「Primula polyantha. プリムラ・ポリアンサ」など学名の表記やレイアウトから、植物の品種の特徴を正確に超精密に描かなければいけないボタニカルアートへの、ロイ・リキテンスタイン的アプローチによるアンチテーゼにも見えてきました。まぁ、これは私の勝手な感じ方ですが。

 

一家に一台、または一人一台PCを持つことが当たり前となった今日ではインクジェットプリンタを持っているご家庭は多いと思います。インクジェットの手軽な印刷に見慣れてくると、オフィスやコンビニのレーザー印刷を新鮮に感じることはないでしょうか。インクジェットはインクを吹きつけて、レーザーはトナーを熱処理で付着させるという違いがありますが、レーザーのあのちょっと焼けたような匂いやつるっとした強固な印刷面、滲みのない輪郭などは家庭ではできない半プロっぽさがあります。ZINEが登場した時分も、80年代後半のアメリカ西海岸のスケーターたちが写真やグラフィティなどをコピー機で刷ってホチキスで留めたスタイルがかっこよかった。

 

毎度音楽の話で恐縮ですが、本展の会場のdessinさん(中目黒)と金柑画廊さん(目黒)の中間あたりにwaltzさんというカセットテープを豊富に取り揃えたお店があります。カセットテープの位置付けがレーザープリンタの位置付けに重なるように思えてなりません。手軽で普及しているもの(インクジェットプリンタ、データ音源)でなく、回帰して一定の価値が認められているもの(シルクスクリーン印刷、レコード盤)でもなく、その中間という位置づけです。中途半端な位置付けながら、その良さにこだわる層がいて、Ogawa Yoheiさんは展示の際にカセットテープでBGMをかけていますし、スクラッチも可能でDJが使用することもあるそうです。waltzさんに並んでいたカセットテープの、小ぶりでちょうど良い大きさながら、何かワクワクさせるような佇まいは確かに魅力的でした(カセットデッキから買い揃えないといけないので購入には至りませんでしたが)。

 


作品は他にもあり、合計15点ほど。

 

会場である古書店の、dessin |デッサンという店名は、本を読んだ後にその本のページを見ながら絵を真似てノートに描いてみた、という小さい頃の経験から着想を得ているそうです。大塚さんの作品に刺激され、つらつらと勝手なことを書きましたが、植物図鑑を見た後で真似して描いた絵という見方もできると思います。良いと思ったものを自分の手で真似て、良いと思う質感を追求して、最終的には自分のものにしていく。こだわりを感じられる大塚さんの優しい作品を、ぜひ間近で見てみてください。


関連記事