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感想 ヘルミッペ 個展「Mix Cell」

 

ヘルミッペ 個展「Mix Cell」

 

会 期:2022年10月15日(土) - 2022年10月30日(日)

時 間:平日 16時-22時 土日 13時-19時  

休 廊:木

場 所:亀戸アートセンター (KAC)

展覧会URL:

https://kac.amebaownd.com/posts/37681377?categoryIds=1764028

 


 

ほぼちょうど一年前、ヘルミッペさんと仲田慎吾さんの 2人展「LOCUS ── 位置、点、軌跡 」を亀戸アートセンターさんで拝見しました。→参考記事:感想 仲田慎吾・ヘルミッペ「 LOCUS ── 位置、点、軌跡 」

 

今回、同じく亀戸アートセンターさんにてヘルミッペさんの個展が開催されているということで伺ってきました。

 

ヘルミッペさんは異なる解像度のピクセルを用いた「ミクセル (Mix Cell)」という手法を基本に作品制作をされています。ピクセルの大きさが違うものが混在している状態が「ミクセル」の特徴です。スマートフォンで制作した作品をチェキやリソグラフで出力したり、網戸のような支持体に絵の具を埋めていくような手法やドローイングなど、幅広い表現方法が採られています。

 

私は初め、「リグラフ」と「リグラフ」を勘違いしていたのですが、「リソグラフ」とは石版画の「リトグラフ」ではなく、プリントゴッコで有名な理想科学工業さんのシルクスクリーン印刷機を使用して版画作品が制作出来るシステムのことを指します。ヘルミッペさんのリソグラフ作品は主に3色刷りだそうです。3回刷っているということですね。

 

 

 

上3作品:ポラロイド「盆栽」

下:リソグラフ「花を背負い抱かれる仔馬」

 

 

上4作品:ポラロイド「盆栽」

下左:リソグラフ「カセットテープフラワー」下右:「集める」

下右の「集める」は体がモナリザで、顔がハチ公? のようです。 背景のお花は元ネタがあるのでしょうか? または、ヘルミッペさんの好むモチーフとして花が登場しているのか? 色々な要素を集めた作品のようです。

 

リソグラフ作品はエディションが各15〜20となっています。

 

 

上3作品:ポラロイド「盆栽」

下3作品:ドローイング「盆栽」

ドローイングも「ミクセル」。色々な大きさのピクセルで構成されています。

 

 

 

 

植物、虫、猫などのモチーフを中心に盛り沢山の作品群です。少しピックアップしてご紹介します。

 

 

ドローイング「スモークツリー」(チェキ付き)

チェキ付きの作品はアナログ表現とデジタル表現を見比べてみるのも面白いです。

 

ドローイング「スモークツリー」(部分拡大)

 

ドローイング「スモークツリー」(チェキ部分)


 

リソグラフ「Influencer」

これは本展のメインビジュアルに使用されている作品。人間のような身体にスフィンクスという種類の猫ちゃんの顔が付いてます。

 

リソグラフ「ユーフォルビアマハラジャ」

「ユーフォルビアマハラジャ」で検索すると似た画像が出てきますが、マハラジャとは流通名で、ユーフォルビアのキリン角という台木に、綴化(てっか)という奇形になってしまったラクテアを接木して生かす、という状態のものを言うようです。

接木の感じが異なるピクセルの複合と繁殖を連想して、未来的な印象です。


 

左:リソグラフ「ナガクシヒゲムシ」 右:ドローイング「花瓶と花」

 

「ナガクシヒゲムシ」

「ナガクシヒゲムシ」で検索すると、作品にあるような、広がるような触覚をもつ虫が出てきます。触覚に浮かび上がる独特の模様はヘルミッペさんの味付けと思われますが、これも未来的な印象でちょっとトキメキました。触覚をばっと広げたところに模様とかネオンサインとか浮かんだら、ロマン感じませんか?

 

 

 

左:ドローイング「折り鶴ラン」(チェキ付き)

右上:リソグラフ「ウデムシ」 右下:リソグラフ「ゲーム」

 

「ウデムシ」

「ウデムシ」も検索したところ、これと同じもの (のさらに生々しいもの) が出てきました。こんな形状の虫もいるんですね。虫の世界も奥深い!

 

 

リソグラフ「両替商の天秤御殿」

 

リソグラフ「雲盗み塔」


建物の表現はまた違う世界観に溢れています。カクカクしたデジタル! 未来! という印象ではなく、どこか優しいような、懐かしいような感覚も呼び起こされるから不思議。

 

 

リソグラフ「偏愛」

こちらは、2022年の1月に下北沢BONUS TRACKにて開催されたイベント「偏愛」にて、大江戸テクニカさんのカセットテープDJライブと同時に行われたライブペインティングで描かれた作品、とのこと。スクリーンにピクセルアートが大写しになっている様子が大江戸テクニカさんのTwitterで確認出来ました。→大江戸テクニカさんTwitter

 

すごい。デジタルのライブペインティング、かっこいい。

 

イベント「偏愛」は「カセットテープDJを作ろう、育てよう、広めよう」という有志によるカセットテープイベントで、大江戸テクニカさんはカセットテープDJ装置の開発、少量生産を行っています。このリソグラフ「偏愛」の上部に浮かんでいる機械のようなものはこのカセットテープDJ装置です。→参考ページ「Maker Faire Tokyo 大江戸テクニカ」

 

本展にも、ヘルミッペさんにより制作されたカセットテープが販売されています。

 

下中央:カセット「Mix Cell」

 

帽子「カセットテープ」

会場で販売されているキャップにも、木片にレーザーで描かれたカセットテープが付いています。


 

 

リソグラフ「耳鳴りの治療」

耳の構造が描かれていますが、グロさはありません。解像度が低くなるピクセルの良いところでしょうか? ピクセルだから、というだけではなく、ところどころ、点線のように並んだ半円の模様が音の伝わりや治療効果の波紋を連想させて、かわいいような、ポップな印象になっています。

 

 

 

リソグラフ「小舟」

この作品の朝陽 (と私は感じました) や全体の表現がたまらなく好きです。小舟に反射したオレンジ色や、透けている水面、段違いになっている画面の右部分などです。さらによく観ると人物が持っているものが何なのか? オール? ではなさそうだったり、エンジンの操作するもののようにも見えるけどピストルとか刀のようにも見えるし、人物も黒いコートに黒いハットでスパイのようだし、と色々な状況の想像が可能です。湖面 (と私は感じました) には薄靄がかかっていて、冷たくて澄んだ空気も感じられます。小説の挿絵、映画のワンシーン、そう言っても納得してしまいます。

 

 

 

ネットドローイング「アロエ」(チェキ付き)

網目の中に絵の具が埋め込まれています。チェキとまったく同じというわけではないところに、イメージの変遷、という概念が表現されているように感じました。

 

 

ネットドローイング作品はロフト部分にも展示されています。2021年の「有楽町・UNIQLO TOKYOでの秋のコーディネイトに合わせた展示」でも使われたネットドローイングを間近で観ることが出来ます。

 

ネットドローイング「ぶどう」

 

ネットドローイング「ぶどう」(部分拡大)

葉の表現が面白い。


 

ネットドローイング「虎」

 

ネットドローイング「虎」(部分拡大)

こんなに色々な模様やパターンを使っていても、虎と分かる表現力。


 

ネットドローイング「鳥と花畑」

 

ネットドローイング「鳥と花畑」(部分拡大)


これらのネットドローイングがディスプレイされている画像をヘルミッペさんのTwitterで発見しました。→こちら

デジタルで描かれた元絵の作品から、実際のネットに絵の具を埋めて描かれる際にはバランスをみて少し変えている、ということがつぶやかれています。

 

 

 

他、アディダスとのコラボの際の作品「The Cave」なども展示されています。

 

 

左:非売品 右:「The Cave」

 

非売品。

 

中央のサイネージ、左右のリソグラフ共に販売有。


 

 

 

 

その他、貴重な初期の画集などが当たるガチャガチャや、ヘルミッペさん在廊時限定で開催されるイベントなどもあります。

 

ガチャガチャ

 

ガチャガチャ賞品サンプル


 

作家在廊時限定イベント

 

亀戸アートセンターさん名物、展示期間限定プリント


 

在廊されていない日に伺ったので実際の制作風景は拝見していませんが、亀戸アートセンターオーナーのchappyさんに、ヘルミッペさんがスマホで描画されているところの動画をちらりと見せていただきました。例えば植物をその場で描くという在廊時イベントの場合、スマホは1台で作業しているからでもありますが、指定の植物を画像などで確認した後、植物の画像を引っ込めて、描画のアプリでピクセルを描く作業をし、また途中で画像を確認することはあっても、一度視界からは植物の画像を外して描くいているようです。自身の中に焼きついたイメージを元に、ピクセルを構成していくような制作風景でした。

 

ピクセルアートと一言で言ってしまうと、そのアプローチ方法は限られているようなイメージでしたが、画像や実物を元に正確に色を置いていく人や、アニメのような輪郭線を描く人など、実際には十人十色の表現方法があることに気づきます。ヘルミッペさんは「ミクセル」という解像度の違いを用い、そして、実物に忠実なモチーフを描くのではなく、イメージを一旦自分の中で消化してからアウトプットしている。本展の作品群をあらためて観るとその幻想的な世界観や、懐かしい感覚、人の温もりを感じるような柔らかさ、近未来を見ているようなワクワクした気持ちなどは、この「一度はヘルミッペさんの脳内を通過した」という過程が重要なのかな、と思いました。制作風景の様子では一瞬とも言える短い時間でイメージを焼き付けているようなのですが、重要なプロセスのように感じます。

 

ヘルミッペさんに限らず、作品全般とはその作家の脳内を通過したアウトプットだ、と言ってしまえばそうなんですが、この「ピクセル」という小さい単位だと、脳内通過のビフォーアフターが鑑賞者にも把握しやすく、さらに、本来ならピクセルに変換するということは、実際に見えている世界の高い解像度が低くなる (把握出来ないほど細かい点の一つ一つが見えてくるので粗くなる) ことと思われるのですが、ヘルミッペさんの作品は逆に解像度が高くなったように思えるほど新しい要素が加わっています。その新しい要素こそがヘルミッペさんの世界観であり、鑑賞者にとても認識しやすい形ですっと入ってくる。これがライブペインティングが可能なくらい短い間でなされるところがすごいなぁと思います。スマホで描ける、とのことなので、日常的に数多くのモチーフを変換しているのでしょうか? やはり、AI より人間の脳内の世界観のほうが良いなぁ。1 + 1 = 2 以上のものがあると思います。

 

 

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ピクセルアートの「ピクセル」とはピクトグラム (図記号) のピクトと細胞を表すcellを組み合わせた造語で、ドットが絵を構成する細胞という意味でピクセルといいます。

(中略)

様々な素材やモチーフを細胞と捉え、それらを混ぜ合わせることで新しいピクセルアートを生み出す試みがテーマとなっています。

 

(Kameido Art Center ヘルミッペ 個展「Mix Cell」ページより 抜粋)

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アナログのドローイングから音楽などの分野の違うアウトプットまで、と、視覚以外の感覚も併せて味わえる世界観です。どこか懐かしいけれど未来的な空間に、ぜひ足を運んでみてください。

 

 

 

 

 

展示風景画像:ヘルミッペ 個展「Mix Cell」


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