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藤本正平 個展「本と」
会 期:2021年11月20日(土) - 12月12日(日)
時 間:12時-19時
休 廊:月火水 (祝の場合は営業)
場 所:金柑画廊
展覧会URL:
https://www.kinkangallery.com/exhibitions/1983/
当サイトはアートを見た目で音楽ジャンルに分けるという試みを実行しておりますが、本家の音楽の世界ではストリーミングサービスの普及に伴い、旧来のジャンルには該当しないハイブリッドな楽曲を産み出すZ世代が台頭してきております。ビリー・アイリッシュさんなどがその代表だそうです。既存のジャンルが通用しなくなってきているのですね。個人的にはオルタナティブって言われたらみんな当てはまりそうと思っていましたし、最近は、オブスキュアパワーポップ、カオティックハードコア、インダストリアルアンビエントメタル、など複数の要素を合わせたジャンルもあります(かっこいい)。何となく曲の雰囲気は掴めますが、時代はジャンル混迷期に突入したと言えるのではないでしょうか。
アートにもその兆候はあって、作家が自覚しているいないに関わらず、平面作品でありながら立体作品のようなアプローチをしていたり、デジタル的な見た目のアナログ作品、またはアナログ的な手法で制作されたデジタル作品というのもみられます(例として、関連記事の展覧会レビューをみてね)。平面であるとか立体であるとか、アナログだ、デジタルだ、といった線引きは、現代の作家には窮屈なものなのでしょう。前述の音楽ジャンル混迷の経緯に当てはめれば、この傾向もインターネットの普及により自然発生したものと捉えられます。音楽ストリーミングサービスより多くのイメージ共有方法が早期からネット上に溢れていたわけですから。
藤本正平さんはグラフィックデザインをルーツに持つ写真家です。ポール・オースター著『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』を映画化した「Smoke」に登場するオーギーの、毎日写真を撮るという行為に感じるものがあり、ロンドンと東京の地下鉄全駅の街並みを撮影するというライフワークの一つに繋がったそうです。シャッターを切った数は1日1,000回にも及びます。
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一見して、写真展というよりは、インスタレーション的展示と感じると思います。ですが、意図してコンセプトの軸をそこに置いたと言うよりは、選び抜いてもなお、6,000枚〜8,000枚と見積もられる圧倒的な枚数と、DJが曲をリミックスするようにそれらを編集して見せるという結果が、この展示スタイルに繋がった自然な形として受け取られました。実際に手に取ってめくってみて欲しいと、在廊中の藤本さんに教えていただき、一旦「本」を手にすると、1冊のまとまり、1枚の写真へと注意が向かっていきます。
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藤本さんはこの様子をフィッシュマンズのアルバムタイトル『宇宙 日本 世田谷』になぞらえていました。会場全体が宇宙、1冊が日本、1枚が世田谷、です。印画紙に印刷されたもの、レーザープリンタで出力されたもの、重なっていたり、折り込まれていたり、セロテープで留められていたり、ホチキスで留められていたり、雑誌を土台に貼られていたり。質感までを含めたリミックスであり、1冊につき10回は編集を繰り返しているそうです。1枚1枚に気を取られながらも隣同士の写真や1冊ごとの傾向が気になってきます。実際DJもすることがあるという藤本さんの、繋ぎ、流れといったバランス感覚が感じられます。
会場内では藤本さんと縁の深い9人のクリエーターが制作した本も並んでおり、編集された写真の本という同じ手法を取っても、決して似たようなものができることはなく、作家によって様々な表情を見せるということが分かります。
近藤ちはる "Where's the music? (Remix) Vol.1-6"
まさにリミックスされた、レコードジャケをディグる感覚でめくる6冊。
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平田優「フェレンゲル」
ミウラオリ、トレーシングペーパーなどを介して不思議な現象の視点で見る1冊。
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吉川徹 "City of Ghost"
写真を編み込むことで再編集された1冊。ポール・オースターの作品を取り上げているのは偶然。
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川尻竜一「ウォリー・ビーズ」
数珠をテーマに、紙質や留め方などにもこだわりがみられる1冊。
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菊地和広 "STREET HASSLE"
写真とグラフィックの混じり合いから街の喧騒を表した1冊。
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齋藤基正「薫る」
布貼りのタトウ箱のような装丁が意識的な、献花を集めた1冊。
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塚田佳奈 "homesick"
柔らかい光を感じさせる1冊。写真によって紙質を変え、触って感じるという部分が藤本さんの作品と共通しているが、印象は全く異なる。
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中島宏樹「写真ととと」
本展「本と」の作品を撮ってスクラップした入れ子的な位置付けの1冊。布にマウント、ボルト留めという装丁は藤本さんの本と対照的。
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ワビサビ "ALL THIS USELESS BEAUTY"
藤本さんが唯一、タイトルと、ドライフラワーという題材を指定して制作してもらったという1冊。
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"ALL THIS USELESS BEAUTY"はエルヴィス・コステロのアルバムタイトルより。この言葉に藤本さんの写真に対する思いが集約されている、と金柑画廊の太田京子さんはリリース内で述べています。ワビサビさんと藤本さんの親交は深く、タイトルと題材が指定された中でも、紙質や、息継ぎせずに見る並びなど、藤本さんの写真を理解し尽くした個性的な作りになっています。
会場である金柑画廊さんは、そこまで大きい画廊さんではないのですが、作品の密度の濃さから、短時間では堪能しきれない展示となっていました。違う天候の日、違う時間帯、一人で行くか誰かと行くかでもまた印象が変わるのではないでしょうか?
また、本展の藤本さんの50冊に及ぶスクラップブックは量った重さで値段が決まります。重なって貼られている見えない写真も作品の構成要素として重要だと思うので、重さでの販売は納得です。
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1冊3,000円の小作品もあります。
ノーファインダーというファインダーを覗かずに撮る方法での撮影は、写り込んでしまった人が意識しないありのままの街の風景を切り取るのに最適ですが、ある時から職務質問が多くなったと藤本さんは言います。視聴がそれほど多くないYouTubeの映像でも通行人にモザイクがかかっているのを見て、藤本さんはこの手法での撮影を辞めることを決意したそうです。2019年4月30日、平成が終わると同時に辞めたと言います。今後は何かしらのテーマを設け、三脚を立ててファインダー越しの作品に取り組むという藤本さん。新しい作品に期待するとともに、写真というジャンルからはみ出した、一つの時代の展覧会にぜひ足を運んでいただきたいと思います。
展示風景画像:藤本正平 個展「本と」
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