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感想 南谷理加 個展「ブレイン・ウォッシュ」

 

南谷理加 個展「ブレイン・ウォッシュ」

 

会 期:2022年11月3日(木) - 2022年11月20日(日)

時 間:木金 13時-19時  土日祝 12時-18時

休 廊:月火水

場 所:biscuit gallery 2階

展覧会URL:

https://biscuitgallery.com/solosolosolo-vol3/

 

 


 

本展は biscuit gallery さんのトリプル個展「SOLO SOLO SOLO vol.3」で開催された 3名の作家による個展の感想記事の1つです。それぞれは独立した個展なので、別記事になっています。

 

参考動画:アートが生まれる『場』に出会う【OPEN THE DOOR】新井碧・南谷理加・西村昂祐

 

 

南谷理加さんは1998年生まれ、多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業、東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻在学中。2021年の11月〜12月にBambinart Galleryさんで開催された個展「WONDERLAND Ⅲ」の感想を記事にしましたが、「南谷ワールド」と言っても良いような不思議な世界をさらりとした塗りで表現されているのが特徴です。以前の感想記事にも「とにかく説明できない魅力を携えた「考えるな感じろ」的な作品 」と書きましたが、

本展ではさらにその魅力が増した作品群を堪能出来ました。→参考記事:感想  南谷理加 個展「WONDERLAND Ⅲ」

 

 

 

本展のタイトル「ブレイン・ウォッシュ」は村上春樹さんの著書『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』中に出てくる単語だそうです。「洗脳」、ではなかった。物語の中で「ブレイン・ウォッシュ」の意味することは、「データを脳内で暗号化する」ことだそうで、南谷さんはその「一回データを (脳内) に入れて暗号として出す」という作業が「自分の制作と似てるな」と思った、とMEET YOUR ART の動画内で語っています。

 

ということを知った上で鑑賞しても、本展で発表されている作品群に新たに現れた人物の表情や状況は、どこか「洗脳」を思わせる気がします、、、(ちなみに、鑑賞時はその動画が公開される前でしたので、「洗脳」の意味で観ていました) 。

 

 

 

「Untitled #0224」

私が伺った際、biscuit galleryさんのウィンドウに展示されていたのは南谷さんのこちらの作品でした。

 

目〜!

 

 

「Untitled #0224」(部分拡大)

お向かいの看板が少し映り込んでおりますが、正面から見た作品画像はこちら。目の強さと、背後から語りかけるように手を回している怪しい人物。手に持った本?も日本の古い文のようです。

表情、状況を含め画面全体から漂ってくる妖しさ。洗脳ぽい、、、。

 

「Untitled #0224」(部分拡大)

タトゥーというのも、南谷さんの作品では初めて見ました。ちょっと余裕をかましている悪魔? 緊張感のある画面全体の世界観とは裏腹に、タトゥーの中はゆるい空気が流れています。


 

以前に伺った個展では、現実ではあり得ない世界と色彩や構図の絶妙さに心奪われたのですが、ある種、作家本人の持つ「才能」と言っていいのか「元々作家が持っているもので描いている」とも感じられて、その部分は今後一体どう変化していくのか、変化していかないのか、ということが気になっていたのですが、本展の、ちょっと怖いような人物像にはまた違った新鮮な驚きがありました。「南谷ワールド」であるけれども、初めて出会う魅力で、ぐいぐい引き込まれていきます。私がもし絵を描く側の人間であったら、作品が好き過ぎて、その「持っているもの」が羨まし過ぎて、嫉妬に狂うかも。

 

 

 

左:「Untitled #0219」 右:「Untitled #0234」

 

「Untitled #0219」

泣いている (?) 人物と、タトゥーには、心配しているような人物と犬のような生き物が見えます。

 

Untitled #0219」(部分拡大)

タトゥーの中の、向かって右の生き物は「Untitled #0224」で悪魔っぽい生き物とフランクに話していた人物? と似ている気もします。泣いている人物の「本体」とか「守護霊」とか「スタンド」的なものなのかも。何か気にかけている風ですよね。


 

「Untitled #0234」

ううう、、、良い絵だなぁ。

好きなところは、奥の虹色のオーラのようになっているところと、胸から下の色が変わっているところです。

 

Untitled #0234」(部分拡大)

何か「本体」的な生き物がタトゥーの中に描かれていないか探してしまいます。色々な「自分」を内包している人物なのかも? だからオーラも複数の色があるのかしら。内面の広さから、犬に好かれる人物。


 

 

 

左:「Untitled #0227」 右:「Untitled #0233」

 

Untitled #0227

南谷さんの描く犬も好きです。毎回違う姿を見せてくれます。犬と分かるのに実際の犬ではあり得ない形状であり、人間ぽさも持ち合わせています。デフォルメではない「表現の置換」とも言えそうな現象が起きているようです。まさに「ブレイン・ウォッシュ」=「一回データを (脳内) に入れて暗号として出す」ということでしょうか。

 

Untitled #0233

タトゥーをこう描く人っていますか? すごい。うなじ付近の髪の毛の乱れと画面下部に描き込まれたオレンジ色のパンツの部分が絶妙です。絵、うまー! としか言えない、、、。


 

「Untitled #0193」

 

「Untitled #0193」(部分拡大)

背景に文字が出現するのも「南谷ワールド」ならではです。なんて書いてあるんだろう? 読めなくても良い、これは絵の一部だ。

そして「これ、中に絶対、人間が入ってるよね」と確信させるこの鳥の表情。


 

「Untitled #0216」

うえーい。

 

「Untitled #0216」(部分拡大)

タトゥーの「本体」も、うえーい。

右腕が途中で何かに遮られているところとか、地面に置かれた色の点など、以前の作品と似通った雰囲気が一番感じられる作品でした。

この人物の表情は他と雰囲気が違いますね。


 

左:「Untitled #0236」 右:「Untitled #0235」

 

「Untitled #0236」

風を感じる作品です。人物はチェンソーを持っています。

 

「Untitled #0236」(部分拡大)

タトゥーの中の悪魔は斧を持っている。腰のあたりに、手を振る犬のようなものも見えます。

人物の表情、風を受けた髪の流れと手に持った葉、赤い軍手と青いパンツ、タトゥーの中の生き物、と注目してしまうポイントが分散しているようでいて、一枚の絵としての統一感があります。

背景の、薄曇りの空のグレーも好きです。嵐が来そうな湿度を感じます。この場所を、なぜか知っているような気がする。


 

Untitled #0235

こちらは爽やかな風が吹いています。

 

Untitled #0235」(部分拡大)

髪の表現が好きです。


 

 

 

左:「Untitled #0191」 右:「TAKO」

 

Untitled #0191

先ほどの「Untitled #0193」と対になるような作品です。

 

Untitled #0191」(部分拡大)

とてもシンプルなモチーフなのに、この顔の表情に全て持っていかれてしまう。この顔だから、現実ではないと言えるし、絵を描く意味を理解出来る。


 

「TAKO」

背後からの人物はなんとなく心臓に悪い、、、。見方によっては仲睦まじいカップルに見えても良さそうなのに、この不穏感はなんだ?

 

「TAKO」(部分拡大)

『TAKO』という本を読んでいるようです。何か特別な本があるのかと思って一応検索してみましたが、タコの図解のような本や画像がズラッと出てきて、吸盤がちょっと気味悪かったです。

女性の目には少し涙が滲んでいるように見えるのですが? 放心状態でしょうか。タコの吸盤ばかり見続けたら、私もこんな表情になってそう。


 

 

 

「ベテルギウス」

ベテルギウスはオリオン座の赤い一等星のことです。オリオンというギリシャ神話に登場する人物になぞらえた星座の肩の位置にある星で、一説によると、ベテルギウスとは「わきの下」という意味だと聞いてちょっとがっかりしたのですが (かっこいい語感が台無しじゃないですか!) どうやらその説は日本だけで言われているらしく、エビデンスがはっきりしないようです。他に有名な話題として、そろそろ爆発する、とか言われていましたが、その後色々判明した結果から、「超新星爆発を迎えるには、さらに約10万年を要する (参考ページ:nature ダイジェスト ベテルギウスの超新星爆発はいつになる?) 」のだそうです。なーんだ。生きてるうちには超新星爆発を拝めそうもないですね。

 

「ベテルギウス」(部分拡大)

人物と人物の中間にあるオレンジ色の何かが、ベテルギウスの変形した姿なのか、妙な噂話を吹き込まれているのか?

「わきの下」じゃないんですって、あと、爆発も10万年待たないと見られないそうですよ。


 

 

Untitled #0206

犬のイメージが強い南谷さんですが、猫もいました。ん、猫ですよね? オッドアイだ。


 

 

 

南谷さんの個展の感想を初めて書いてから約1年が経とうとしていて、当初「レビュー」とタイトルをつけてUPしていたその記事 (その後、タイトルはまとめて「感想」に変更したので、ちょっと変な導入になっているままです) には、

 

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なぜこんなことを言うかといいますと、南谷理加さんの個展をレビューするにあたって、説明できない魅力を携えた「考えるな感じろ」的な作品を前に、私の現在の能力では到底、画像付き感想文の域を出ないものしか書けないとはじめから分かっているからです。SNSで過去の展示作品を見て、描かれているものは「犬」とか「人」とか言える程度に具象化されているにもかかわらず、作品全体の持つ抽象性と、画面構成の完璧さに驚きました。本展をぜひ見たいと初日に伺った後、次の日に作品を求めに再訪しました。要は「何だかよく分かんないんだけど良い」ってことです。

 

(感想  南谷理加 個展「WONDERLAND Ⅲ」より抜粋)

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と、完敗宣言をしていました。

 

そして1年近く経っても、「画像付き感想文」しか書けませんでした。すごい。

 

いえ、何かを語れるから良いとか、逆に語れないからすごい、とかではないです (謎を解くかのように考察出来る作品も大好きです) 。個人的に作品が、どストライク、ということなのかも知れません。

 

ちょっとまぁ「ブレイン・ウォッシュ」されてみようかな、という方、「南谷ワールド」は一推しです。軽い気持ちでもハマると中毒性があるので、そこは自己責任でお願いします。ぜひ、足を運んでみてください。

 

 

 

展示風景画像:南谷理加 個展「ブレイン・ウォッシュ」


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