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感想 八木恵梨 個展「LIFE, SAVE, AH~ #6」後編

 

八木恵梨 個展「LIFE, SAVE, AH~ #6」

 

会 期:2022年6月4日(土) - 2022年7月3日(日)

(土日祝のみ開廊)

時 間:12時-19時

休 廊:月-金

場 所:Token Art Center

展覧会URL:

http://token-artcenter.com/archive/16_yagi

 


 

前編からの続き記事です。まさかのページ内コンテンツ超過。2階の展示作品に参りましょう。

 

「I AM A GOOD GIRL」

階段をあがったところにある映像作品。オレンジ色のハンカチのような布が開いたり、絞るように閉じたりしています。強い風に煽られ翻っているよう。書かれている文字は「I AM A GOOD GIRL」です。

 


前編でご紹介した作品「Grave of GOOD GIRL (グッドガールの墓) 」に関係してくるこの「I AM A GOOD GIRL」というフレーズですが、「GIRL」という発音は日本人には難しいということでスイムキャップ (ライフセーバーに焦がれる八木さんの別人格) が発音練習をしている音源があります。

 

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“I AM A GOOD GIRL”の発音練習

 

この「I AM A GOOD GIRL」という言葉には、しつけの場面などで幼い娘に親が言って聞かせるという「良い子」というような文字通りの意味もありますが、女性が男性に向けて誘惑するような時にも使われるそうです。スイムキャップがライフセーバーを想い、9分も発音練習している様は微笑ましい感じもしますが、、、相手は幻の男性なんだよなぁ。幻への不安定な想いが強まったり弱まったり、映像の中のオレンジの布が翻弄されているようにも見えます。映像にはもっとはっきり誘惑しているシーンもあるのでぜひ全部観てください。

 

2階では八木さんが在廊されており、色々と興味深いお話を伺えました! 

 

1階の作品「Grave of GOOD GIRL (グッドガールの墓)」について、翻弄される状態の終わりということですか? というようなことを訊いたのですが、完全な終わりではなく続いていく場面の一つということでした。よく見ると、そのことを表すように繋げられるパーツもついているそうです。

 

「Grave of GOOD GIRL (グッドガールの墓)」(部分拡大)

「I AM A GOOD GIRL」の文字が。

 

「Grave of GOOD GIRL (グッドガールの墓)」(部分拡大)

おお! 本当だ、繋がる一つのチャームですね。


 

 

2階の作品に戻ります。

 

「Coral_diagram_LIFE, SAVE, AH~」

タイトルにあるダイアグラムとは、手順や事柄を図形や記号などを用いて表したものを指し、フローチャートなどが当てはまります。こちらの作品は珊瑚の分岐がライフセーバーの物語のダイアグラムになっているようです。

 

「Coral_diagram_LIFE, SAVE, AH~」(部分拡大)

あれ、これは、、、どこかにもあったぞ。

 

「Kiss_LIFE, SAVE, AH~」(部分拡大)

救命ブイの下に描かれているこちらと同じ? サンセットの風景もありますね、、、!


 

このモチーフは何でしょうね? 灯籠のような? 「Coral Diagram LIFE, SAVE, AH~」の作品内では、このモチーフの下にTouch IDを思わせる指紋のようなマークがぶら下がっています。サンセット = 夕日が見える「黄昏」時は「誰ぞ彼」からきている言葉で顔が見えにくくなった時分を表し、別名、逢う魔が時と書くように、見えない者、妖怪、幽霊、と遭遇しそうな時と昔から言われてきた時間帯でもあります。幻のライフセーバーと逢える時間帯の合図のような意味があるのかも。指紋認証のように特別な個人に開かれる特別な門。八木さんは、作品を観た人が自由に感じたり色々と妄想したものを聞くのも楽しんでいるとおっしゃっていたので、自由に考察することにしました (灯籠のようなものは、後の作品で正体が分かりました) 。

 

「Coral_diagram_LIFE, SAVE, AH~」(部分拡大)

この、上と下を指差すモチーフもあった、、、。

 

「Kiss_LIFE, SAVE, AH~」(部分拡大)

見えますか?


 

これは、、、天上天下唯我独尊しか思いつかないな、、、笑。あれ、作品に描かれているのは同じ手の向きだから違うかも。

 

「Coral_diagram_LIFE, SAVE, AH~」(部分拡大)

救命ブイで漂っているのは、、、ライフセーバー? スイムキャップ?

左下方、珊瑚の上に乗っているヒール靴は女性のものですね。お姫様抱っこの時に脱げてしまったもう片方の靴でしょうか? こうやって見ると、シンデレラのガラスの靴みたい。


 

「Headdress_diabram_LIFE, SAVE, AH~」

ヘッドドレスには付け替えられるチャームが付いています。ライフセーバーにまつわるものがたくさん。呪術的。

 

「Headdress_diabram_LIFE, SAVE, AH~」

また出た、灯籠もどき(中央下) 。ん? (左上から時計回りに) 双眼鏡、ライフジャケット、笛、救命ブイ、と来て、、、これ! 監視タワーだ! ス、スッキリしたぁ!!!

(左下の指紋みたいなものが新たな謎に。下に番号? IDカードってことでよいのかな?)


 

エルメスのスカーフに見られるイラストについても語ってくれた八木さん。エルメスのスカーフに描かれるモチーフは過去の商品などの資料から歴史なども絡めて選ばれているそうで、テクニカルイラストレーションにも似たシンプルな線で、馬具、アクセサリー、紳士、貴婦人、パリの本店などがモチーフとして描かれています。表現に至るプロセスに非常に近いものを感じたと言う八木さん。確かに八木さんの作品がスカーフになっていても違和感がないです。

 

「LIFE, SAVE, AH~ on dry land (乾いた土の上のライフ、セーブ、ア〜)」

こうやって追ってくると、描かれたモチーフが繋がってきますね。

 

「LIFE, SAVE, AH~ on dry land (乾いた土の上のライフ、セーブ、ア〜)」(部分拡大)

鏃で刺された指はキューピッドの矢の逸話のようにライフセーバーに恋してしまった瞬間を表しているのでしょうか?

ライフジャケットについては後述。

 

「LIFE, SAVE, AH~ on dry land (乾いた土の上のライフ、セーブ、ア〜)」(部分拡大)

絞られた布には「I AM A GOOD GIRL」と書かれている? 双眼鏡はライフサーバーの必需品ですね。


 

「LIFE, SAVE, AH~ on dry land (乾いた土の上のライフ、セーブ、ア〜)」(部分拡大)

監視タワーとサンセット。モチーフは恋焦がれる血のしずくで繋がっている。

 

「LIFE, SAVE, AH~ on dry land (乾いた土の上のライフ、セーブ、ア〜)」(部分拡大)

周囲には溺れて、もがいているような手。焦がれる気持ちにもがいている。


 

「hair on the sky (空の上の髪)」

草のイメージとも重なる髪。絡まったり切れたりします。髪や草が密集すると布のように視界を塞ぐ。「I AM A GOOD GIRL」の布のような、一つのことに拘る姿勢、しかしその一つのことは、「I AM A GOOD GIRL」の言葉そのもののように別の異なる意味を含むものでもあります。八木さんには、同調圧力が怖いという想いがあるそうです。髪や草が密集した状態が布のように目隠しもできる圧力だとすると、髪が風になびいて隙間ができたり、草が切れたりしているのは、その圧力から脱しようとしている状態を表しているのかもしれません。


 

この感じ、何かアレに似ている、、、 。

 

 

 

そして、、、

 


「LIFE, SAVE, AH~ Crazy Wall」(一部)

 

あえて、一番最後にご紹介します。Crazy WallとはFBIや刑事事件もののドラマでよく見る、人物や物品の写真を貼ったり、文字や矢印などで関係を示したりしているホワイトボードのことを言います。事件の真相に迫るために必要なツールです。こちらの作品はもちろん、ライフセーバーの物語に迫るために作られました。

 

「LIFE, SAVE, AH~ Crazy Wall」(一部)

 

「LIFE, SAVE, AH~ Crazy Wall」(一部)


 

「LIFE, SAVE, AH~ Crazy Wall」(一部)

 

スピーカーからは、不思議な語りが流れている、、、。

 

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夕日の神話

 

キーワードの夕日がタイトルにも! こちらでは、ライフセーバーとスイムキャップとの出会いと別れの物語が、八木さんが生まれた沖縄県宮古島の言葉で語られています。ところどころ、分かる単語が聞こえたと思ったらまたすっかり分からなくなってしまう。

 

「LIFE, SAVE, AH~ Crazy Wall」(一部)

 

「LIFE, SAVE, AH~ Crazy Wall」(一部)

本場のCrazy Wallよろしく、掲示場所を入れ替えられるようになっています。八木さんが外して見せてくださいました。

透明ケースを縫っている糸は絵の具の色に合わせてありました。


 

「LIFE, SAVE, AH~ Crazy Wall」(一部 部分拡大)

この作品で使用されている絵の具はクサカベのハルモニアという分離水彩絵の具。分離絵の具とは、混ざりきらない粒子が原因で起こる分離という現象をあえて利用し、2色以上の色を出現させる絵の具のことです。八木さんはこの色「ウィッチボルドー」の色名にも惹かれたのだとか。魔女のボルドー。画像では見えにくいですが、ボルドー色の中に青い色が出現しているのが見えます。


 

「LIFE, SAVE, AH~ Crazy Wall」(一部 部分拡大)

この風景の中に→

 

「LIFE, SAVE, AH~ Crazy Wall」(一部)

→この人がいる!


 

「LIFE, SAVE, AH~ Crazy Wall」(一部)

ライフジャケット / 救命胴衣について、八木さんがとても興味深い視点で語ってくれました。飛行機内で流れる、キャビンアテンダントの方が解説する付け方の動画を観て、優雅な姿に、まるで神楽を舞っているように感じたそうです。言われてみれば、息を吹き込むのもフリだし、決まっている作法のような感じもあります。そして、命に関わることであり、特別な時にしか身に着けられないもの。ライフジャケットは神聖な衣服という見方もできる、と。


 

「Lifebuoy_LIFE, SAVE, AH~」(部分拡大)

そう言えば、この作品の不思議なモチーフは、、、

 

「Lifebuoy_LIFE, SAVE, AH~」(部分拡大)

ライフジャケットの燭台、、、!


 

前編から私がずっと共通点を感じているアレ。このCrazy Wallを見た時も感じたのですが、勇気を出してそのワードを八木さんの前で出してみました。

 

エルデンリング、です。

 

エルデンリング (ELDEN RING) とはフロム・ソフトウェアが開発し、2022年2月25日に発売されたオープンワールドのアクションRPGのことです。世界で1300万本も売れている (2022年6月現在) ヒット作と言えるでしょう。ゲーム内の、ダークでおどろおどろしく、中世的で宗教的な世界観は八木さんの作品の世界観とは似ても似つかないのですが、私がエルデンリングを連想してしまった部分は、考察に至るプロセス:世界観を把握するための重要な物事について、アイテムの説明などで匂わされているテキスト (フレーバーテキスト) から考察していくプロセス、の部分です。1階〜2階の作品から感じた考察欲を刺激する隠喩の数々と、このアイテムリストのようなCrazy Wall。私はエアプ ( = エアプレイ = ゲームをプレイしていないこと、まるでプレイしているかのように発言すること) しかしていないのですが、色々な人の考察を追うのが大好きです。そんな考察の虜になった者は「フロム脳」と呼ばれます。

 

そして、まさかのまさかですが、八木さんはエルデンリングが大好きとのこと! そのアイテムリストのイメージもあって、この「LIFE, SAVE, AH~ Crazy Wall」が制作されていました。エアプでもエルデンリングを追っててよかったー!

 

「LIFE, SAVE, AH~ Crazy Wall」(一部)

エルデンリングに出てくるセイレーンに由来する作品も。

 

「LIFE, SAVE, AH~ Crazy Wall」(一部)


 

「LIFE, SAVE, AH~ Crazy Wall」(一部)

 

「LIFE, SAVE, AH~ Crazy Wall」(一部)


チェーンに繋げられるチャームのようですが、どこかタリスマンぽくもある。

 

「LIFE, SAVE, AH~ Crazy Wall」(一部)

 

「LIFE, SAVE, AH~ Crazy Wall」(一部)


 

「LIFE, SAVE, AH~ Crazy Wall」(一部)

 

「LIFE, SAVE, AH~ Crazy Wall」(一部)


 

「LIFE, SAVE, AH~ Crazy Wall」(一部)

 

「LIFE, SAVE, AH~ Crazy Wall」(一部)


 

「LIFE, SAVE, AH~ 」シリーズは、まだまだ解明し切れない謎が多いです。八木さんは、制作に必要な両輪として、このようなCrazy Wallの制作と、テクニカルイラストレーションを用いた作品とを、今後も作っていかれるとのこと。人間が無意識の内に持っているイメージについても研究されている八木さん。今後の展示も大変楽しみです。

 

「フロム脳」というあまり認知されていない単語を出してしまいましたが、作品を鑑賞する際に、隠されたメッセージや分からないものに迫る面白さについては共通項があると感じています。考察欲を全開にして、ぜひ、足を運んでみてください。

 

 

 

展示風景画像:八木恵梨 個展「LIFE, SAVE, AH~ #6」


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