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【おすすめ BOOK】コンテンポラリーアートライティングの技術

 

コンテンポラリー

アート

ライティングの

技術

 

ギルダ・ウィリアムズ

GOTO LAB 監修

光村推古書院

2020年


サイトの名前を決めたのはこの本の中の言葉 (一般名詞)

 

ことのしだいにも書きましたが、当サイトのonlineartjournalという名前、および、サイト自体のはじまりはこの本がきっかけだったりします。(でも一般名詞を選んじゃうあたり、SEO対策何も考えてないというか、、、苦笑)

 

コマーシャルギャラリーの広報に携わっていた私は、所属作家のインタビューに立ち会ったり、あがってきた原稿を校正したりするうちに、アートライティングというものに興味を持ちはじめました。アーティストが何を考えているのか、ということに触れ、作品への理解が深まることが面白かったんだと思います。しかし、文学部の美術史は卒業しましたが、近代・現代アートの歴史はおろか、アートライティングの授業などなく、ギャラリーの広報経験者だろうが、大学で美術史を専攻していようが、アートについて書く、となれば勉強不足を認識していて、批評、雑誌のアート記事等、何を読んでも「あれも知らなきゃ、あれも読まなきゃ、あれ、あの作家の名前は、、、(ど忘れ) 」と、不安要素しかありませんでした。

 


ギルダ・ウィリアムスってどんな人?

 

この本の著者、ギルダ・ウィリアムズは『Artforum』ロンドン特派員。1994年から2005年までPhaidon Pressのエディターを務め、その後コミッショニングエディターとしてキャリアを築き、数々のアート情報誌、展覧会カタログに寄稿。初の邦訳となった今作は彼女が20年以上にわたり、体験し、実践し、教えてきた現在進行形の「生きた」教本と言え、現在6カ国以上で訳されています。

 

少しでも自信をつけるためにこの本を手に取りましたが、21ページ目の「オンラインアートジャーナル」という言葉と出会うよりも前に、はっきりと「アートを書くための正解はない」と言い切られ、私の不安は、取るに足らないちっぽけなプライドに過ぎないと気づかされました。

 

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 アートについてうまく書こうと心から決心し、そしてこの本で集められた提案にくまなく従ったとしても、それぞれ独自の道を開発する人のみが成功してきたという事実を無視することはできません。 (中略) 言語に対する本能的なセンス、豊富な語彙力、多種多様な文章構造への感性、独自の意見、共有するに値する印象的なアイデア。 (中略) 私はこれらのどれもあなたに教えることはできません。そして究極的には、どの本もあなたにアートを愛することを教えることはできません。

(序論より抜粋)

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私の場合 : とりあえず走り出した。

その後に続く、中身がなく冗長なアートライティングの告発をした「インターナショナル・アート・イングリッシュ」というエッセイの話を読みながら、付け焼き刃のそれらしい修辞を取り入れて武装しようなんて浅はかな考えは捨て、自分の言葉で走り出すしかないとドメインを取るに至ります。

 

走り出したら走り出したで、今日まで読了しなかったのですから、本に対して失礼しました。

 

 

本書の内容、悪い点、良い点

『コンテンポラリーアートライティングの技術』内容

 

内容は「第1章 役目ーなぜコンテンポラリーアートについて書くのか」、「第2章 実践ーコンテンポラリーアートの書き方」、「第3章 秘訣ー形式別 コンテンポラリーアートの書き方」となっており、ツイッター投稿で要点をまとめて文章を鍛えるなど最近のSNS事情も加味されていて (原著発行は2014年) 興味深いです。

 

 

 

『コンテンポラリーアートライティングの技術』悪い点

 

英語特有の皮肉も多く、日本語ではちょっと読みにくい部分もありました。「装飾過多レーダー」とか、面白い表現もあるのですが、、、 (「装飾過多レーダー」とは、自分の文章に装飾が多くなり過ぎていないか検閲するような目を常にもっておくことの例え、ということのようです。一瞬意味を考えて止まってしまうんですよね、、、) 。

 

 

『コンテンポラリーアートライティングの技術』良い点

 

伝わる文章を書くための3つのポイント、①これは何?②どのような意味があるのか?③なぜこの作品が世界にとって重要なのか? という肝の部分が、豊富な「良いアートライティングの例」のどこに該当しているかが最後まで示されるなど、徹底している点は論理的であったり、

 

用途別のライティングの分析も活用できそうで、例えば、「オークションカタログテキストは性質上「寸分違わない正確性」と「情報源の透明性」が必要不可欠」とあり、言われればそうですが、それに気づけば作家や作品を紹介する文の参考にオークションサイトをまず見てみるのも有効だな、というヒントに繋がります。

 

第3章最後の「形式比較:ひとりのアーティストをめぐる複数のテキスト」では、アメリカ人アーティストのサラ・モリスのモダニズムファサードの絵画をテーマに、短い紹介文、美術館コレクションのウェブサイト、展覧会レビュー、グループ展のレビュー、雑誌記事 (大衆誌、専門誌の2パターン) 、カタログエッセイ (4パターン)、アーティストステイトメント、と、実に様々な立場、角度から実際に書かれた文章が載っていて、同一作家の作品への多様な表現がとても参考になりました。序論の「アートを書くための正解はない」の具体的な例が最終章で展開され、実感する形です。著者本人も結びに、アートがどのような書かれ方をしているのかを比較した最終章 (または本書全体) は「コンテンポラリーアートの読み方」と題されてもおかしくない、と言及しています。日本のアートメディアで同じように検索をかけても、ギャラリーのプレスリリースの焼き直しの文章しか出てこない気がするのは、私の検索の仕方が悪いのか、はたまた、日本ではアートライティングの需要が少なく、分野として確立されていないからなのか。

 

論文はもちろん、雑誌やブログのための展評の書き方、書評の書き方、アーティストステイトメントの書き方まで載っていますので、私のようなブロガーから、学生、作家、ライティングはしないけど鑑賞を楽しみたい方まで参考になる本かと思います。

 

 

結論 : 個人の見聞、個性がものをいう世界。自分の言葉で書き始めよう。

 

本書はあくまでライティングの技術的な面をフォローする参考書であって、冒頭でも言われているとおり、何を感じるか、といったオリジナルの着眼点については、展示を見まくって、アートに限らず様々な経験を積んで、見聞を広めるしかないようです。よく見せよう、という装飾は、ツイッターの短い文章でもバレるので、自分の嘘のない意見を信じるしかないですね。

 

アートは個人の表現の世界、それを評するアートライティングの世界もまた表現力が必須のようです。しかしながら、誰でも今すぐ挑戦できる世界と言い換えることもできます。ごりごりに勉強し尽くしてから書き始めるもよし、感性を磨くことを優先に展覧会に行きまくってから書くもよし。定石がないのは自由ということです。この自由を最初に示している本書は良書と言えると思います。

 

アートライティングに興味を持たれる方が一人でも増えれば嬉しいです。いっしょに挑戦しましょう!

 


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