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【おすすめ BOOK】キュレーションの方法 オブリストは語る

 

キュレーションの方法

オブリストは語る

 

ハンス・ウルリッヒ・オブリスト

中野 勉 = 訳

河出書房新社

2018年

 


多分野で使われ始めた「キュレーション」という言葉

 

ひと昔前「キュレーション」は、美術館や博物館などmuseumと訳される機関での、作品管理から展覧会企画などを示す専門的な言葉として使用されていたように思いますが、2010年代頃から様々な分野でも聞くようになりました。現在、動物園、ファッション、まとめサイトに代表されるインターネットメディア、カウンセリングやコーチングと類似した対人関係という分野にまで「キュレーション」という言葉が使用されています。かっこいい響きですもんね、「キュレーション」って。

 

それらの分野での使用が間違いということではありません。作品や情報を体系的にまとめ直し、管理や陳列展示するという意味では、この情報過多な現代ではどの分野でさえも必要なことと思います。「キュレーション」がmuseumの世界に限定されず広く認知されることによって、キュレーションしている人=キュレーターが注目を浴び、現代アートの世界でもアーティストにとって作品が著名なキュレーターの目に留まることがグローバルに活躍することの第一歩に繋がっています。

 

ハンス・ウルリッヒ・オブリストとは?

 

 

この本の著者、ハンス・ウルリッヒ・オブリストも世界的なキュレーターの一人です。オブリストは1968年スイス生まれ、パリ市立近代美術館キュレーターを経て、2006年からロンドンのサーペンタイン・ギャラリーの共同ディレクターを務めています。また、『ArtReview』誌の「Power 100」(世界でもっとも影響力のあるアート界の100人をランク付けしたもの)で、2009年以降上位にランクインし続けており、今までキュレーションした展示は300に上るという、すごい人です。

 

以下、本文より一部引用

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キュレーションや展覧会がじっさいどのような歴史を辿ったのかを語りなおせば、いま言ったような事柄に関連する思い違いをひとつ避けることができる。つまり、キュレーターは彼/女自身、ひとりのアーティストである、という思い違いだ。

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ここを読んで心の中で謝りました、ごめんなさい、思い違いをしていました。現代におけるキュレーターの活躍はアーティストの域に達していると思っていたからです。例えば、オブリストが初期にキュレーションした「The Kitchen Show」(1991年)は、自宅のキッチンにクリスチャン・ボルタンスキーやフィッシュリ&ヴァイスの作品が展示、ってもう意味あり過ぎ、と思いませんか。会場は必ずしもmuseumでなくてよい、とか、キッチンという生活になくてはならない場所とアートとの関係、とか、場所が最初に決まっていてその制約の中で作品がつくられるというミニマムなサイト・スペシフィックだ、とか、その展示自体が作品のように主題を含んでいると思うんです。

 

でもこの本を読んでみてください。「キュレーターはアーティストではない」とオブリストが信念をもって言う理由が書いてあります。

 

オブリストはあまり自分のことは話さないそうですが(「The Interview Project」というオブリストのプロジェクトがあり、訊く側であるからかもしれませんが)こちらの本では自身の軌跡を臨場感を持って存分に語っています。前述の「The Kitchen Show」に至る経緯とか、ゲルハルト・リヒターがOverpainted Photographs(写真の上にペイントする手法)を始めた時にどうやら居合わせていたらしいこととか、そのほかにも「do it」や「Utopia Station」等々、オブリストの興味深い展示の話が章ごとに分かれていて読みやすい。

 

知ったように書いていますが、私はぜんぜん知らなかったのです、オブリストのことを。もし私のようにオブリストのことを全く知らない方が、このレビューを読んで、オブリスト自身や手掛けた展覧会の数々を検索して調べようとするならばおすすめしません。どの情報もこの本のわかりやすさに負けます。本人が経験談として語っているのですから、当然と言えば当然かもしれませんが、一流の人は誰にもわかりやすい言葉で説明してくれる、ということでしょうか。小難しい美術書ではないことを強調しておきます。

  

将来キュレーターを目指す人へ

 

オブリストはキュレーターになるには何をどうすればよいか、全くわからない一人の青年でした。影響をうけたアーティストであるフィッシュリとヴァイスのアトリエを訪ね、本を読み、知り合ったアーティストとカフェで会話し、それが展示に結びついていく。これは一種のロードムービーです。いつか映画化しないかな。

 

もし「将来はキュレーターになりたい」と考えている方がいるならば、とても勇気をもらえる本ではないでしょうか。難しい用語を完璧に覚える必要はなく、有名大学で美術史を学ぶことが必須でもなく、自分の足で興味のおもむくまま、素直に、情熱を持って行動すればいいのだと書いてあるように感じました。

 

 

オブリストは初めに自分の出自であるスイスの特徴とキュレーションを絡めて言及しています。

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スイスは内地国だ。(中略)とはいえスイスは複数の道の交わる交差点でもあって、ひとつの大陸のどまん中に横たわっている。こういった単純な事実を考えてみると、キュレーターを何人も輩出しているのはなぜかが説明される部分もあるかもしれない。(中略)キュレーションの役目とは交差点をつくりだし、異なる複数の要素が触れ合うようにすることなのだ。

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日本は島国なのでスイスの持つ要素とは真逆ではありますが、日本で生まれた独自のカレー、ラーメンなどの食文化や、ハロウィン、クリスマスなどのイベントの盛り上がりを考えると、異文化をすんなり受入れ、応用し、こだわって、カルチャーにまでしてしまう特性があると思っています。これを読んでキュレーターになりたい人が増え、日本でたくさんのキュレーターが輩出されたら、楽しい未来になるんじゃないでしょうか。期待しています。


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