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感想 「ROOM206」

 

「ROOM206」

 

会 期:2023年2月18日(土) - 2023年2月23日(木)

時 間:11時-19時 (最終日17時終了)

場 所:ROOM206

出展作家:あいろく葵、市川慧、大瀧七海

展覧会URL:

https://www.3331.jp/schedule/005840.html

 


 

2023年3月31日をもって、千代田区との契約満了を迎える 3331 Arts Chiyoda 。契約満了後の建物は老朽化のため大規模な改修工事に入るそうです。その 3331 Arts Chiyoda 内にある ROOM206 で開催のグループ展「ROOM206」に行ってきました。

 

出展作家のあいろく葵さん、市川慧さん、大瀧七海さんはともに 2003年生まれ、2022年に都立総合芸術高等学校卒業、同年より美術大学へと進学した、という共通点がある3名です。

 

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2022年4月民法改正により成人年齢が18歳に引き下げられた。コロナの影響で登校もままならず、引きこもりがちに過ごしていた高校時代から受験を迎え、精神的な変化を十分に得られぬまま、卒業と同時に気がつくと大人の責任を求められる立場となっていた。

そんな自分達が初めて自主企画のグループ展を元教室の余韻が残るギャラリーで開催することとなった。教室は、1人の教師に多勢の者が指導される、ある意味権威主義空間であるとも表現できる。そんな場所での生活を経て、自由に描き表現できる大人になった今、手に入れた自分達の出発点ROOM206。この空間そのものが今の自分達の立場であり、過去への郷愁と未来への期待、その狭間にある気持ちの象徴であるように感じられ、そのまま展示会タイトルとすることにした。 

 

(ROOM206 展覧会ページ より抜粋)

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展示されている作品群は、社会的に大人とされる直前の、子供でも大人でもない特殊な時期の状態から見た世界、現実と虚構の境、が表現されているように感じられました。

 

 

 

 

 

 

あいろく葵さんは2022年多摩美術大学絵画科油画専攻入学、「セミ・イラストレーション」という造語により表される、美少女キャラクターが特徴的な作品を制作されています。

 

「Resolution is low.....」

エロかわいい。

 

 

 

 

 

「時過ぎれば」

エロかわいい (2回目) 。

 

 

 

セミ・イラストレーション」という言葉の中には、美少女を生み出すことと、生かすことについて考え、試みられる表現という意味が含まれているようです。

 

また、あいろくさんの作品に登場する美少女キャラクターはこちらに視線をバッチリ向けていることが多いそうです。鑑賞者と視線が合う、ということはキャラクターのいる同じ次元に鑑賞者もいることを意味します。描かれた人物と目が合うという構図はエドゥアール・マネの「草上の昼食」「オランピア」もそうであるように、観る者に「ちょっといかがわしい場面の共犯者的な感覚」を呼び起こさせます。この、少しの罪悪感と高揚感が、未成年の頃に持っていた「外の世界に向ける視線」と重なるように思いました。

 

 

 

 

 

「yamame-chan」

教室の窓際に立てかけられている展示方法がエモい。授業中に外を眺めたら、yamame-chanが笑ってた。そんな情景が浮かびます。

 

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未来からやってきた少女。ファッションセンスは最先端です。

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本展示のキャプションには作品タイトルの下に👆のような解説文が添えられています。作品の解釈を狭めるのではなく、作品世界へ誘うような文章が魅力的でした。本記事ではあえて全作品の文章は載せません。ぜひ現地で確かめてみてください。

 

 

 

 

 

市川慧さんは2022年東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻入学、魔法少女と背広姿のAKIOというような、二次元的描写と写実的描写を用いたリミックス絵画表現や、モチーフを反復させることで時間の経過を表現するネオ未来派など、興味深い試みをされています。

 

「羽化不全」

この作品をSNSで拝見して衝撃を受けたのを覚えています。

 

二次元と三次元、というだけでなく、二次元的なキャラクターにも次元の違いが見られます。工作で使用するカッターマットのような面の上で展開される世界、その外にも何者かがいる。メタバースとかマルチバースという世界観が当たり前のように受け入れられる世界で、酔い潰れたように倒れ込む背広の人物。皮肉のようでもあり悲哀のようでもあり、未来への展望や面白みも感じられました。

 

 

 

 

 

「universe25」

AKIOという人物は、かつて日本の高度経済成長を果たしたモーレツ会社員のその後、バブルがはじけ落ちぶれた様を表しているかのようです。AKIOと魔法少女のシリーズの滑稽なところは、AKIOの精神がまるで魔法少女そのものであるかのように、見た目のギャップを有しながらも同じ立場 = 次元 に置かれているところだと思います。この作品では落ち込んでいるAKIOを慰めに来ている同級生のような魔法少女、あるいは、やらかしたAKIOを詰めるような魔法少女、仲間内のいざこざ、それを目撃しているような構図から何とも言えない滑稽さを感じます。仮想現実に逃げ込んでいる、という笑えない過酷さも漂っているようです。

 

 

 

 

 

「when you wish upon a star」

AKIO、、、本当に憎めない。おじさんと魔法少女の「作品上の」組み合わせがこんなにしっくりくるなんて、、、もはや発明だと思う、、、。

 

 

 

 

 

左:「R.I.P アンドロイドは電気羊の夢を見るか-02」 右:「R.I.P アンドロイドは電気羊の夢を見るか-01」

映画「ブレードランナー」の原作として有名な小説タイトルに「R.I.P」がついています。R.I.P は「ご冥福をお祈りします」という意味で使用される他、ネットスラングで、大切にしていた物をなくしたり壊してしまった時に「とても残念」という意味で使われたりします。フィリップ・K・ディックの小説で問われていた大切なことを、なくしてしまった?

 

キャプションの解説では、誰でもAIイラストを制作、発表することが可能になった今、について言及されていました。

 

 

「R.I.P アンドロイドは電気羊の夢を見るか-02」(部分拡大)

 

「R.I.P アンドロイドは電気羊の夢を見るか-01」(部分拡大)


目と口が「チュ💋」で描かれている。

 

この「チュ💋」が表すものはエモーションそのものでしょうか。個体差、その時の感情の差、微細な角度の差などで印象が大きく変わるのがキスマークです。

 

 

 

 

 

 

「PAGOS」

 

「PAGOS」(別角度より撮影)


2022年の公開で話題になった映画「シン・ウルトラマン」にも登場したパゴス。私は詳しくはないのですが、もともと「ウルトラQ」というウルトラシリーズ第1作にも登場した怪獣ということで、映画公開時にはファンの間で話題になっていました。モチーフを反復させアニメのコマのように時間の経過を表現するシリーズですが、パゴスのモチーフだと「ウルトラQ」(1966年放送) と「シン・ウルトラマン」(2022年公開) という時間の移り変わりも感じさせる効果があるように思います。

 

 

 

 

 

「月世界旅行」

こちらに関しての詳細はぜひ現地でご確認ください。とある課題で、とある人に向けて制作されたラブレターのような作品です。ここで観れるということは、、、? 渡せてないラブレター。展示会場である教室と合わさると、青春そのもののようなベストな取り合わせ、と思います。

 

 

 

 

 

大瀧七海さんは2022年多摩美術大学絵画科油画専攻入学、シュールレアリスムが内包する物語性に着目し、超現実的な世界観に秩序や現実味を落とし込むことを試みています。また、現実をデフォルメすることにより独特の倒錯感を演出します。

 

「在る鶏の秀作」

この作品はキャプションの解説を読んでなるほどなぁ、と思いました。私たちが絵の中に見る現実とは何なのか?

 

 

 

 

 

「ランドマーク」

 

「ランドマーク」(部分拡大)

何かに押しつぶされるのか、何かの影になるように後から街ができたのか、何かに守られているのか。

ランドマーク、とはタワーなのか、大きな丸い何かのほうなのか、どちらでもない別のものなのか。


 

 

 

 

 

「アニミズム」

日本の妖怪「付喪神」は、古道具など時を経たものに魂が見出された結果と言えます。時を経たものってなぜあんなにも趣きがあるのでしょうか。「経年劣化」以上のものを、確かに感じ取れる。

 

 

 

絵というものはフィクションでありながら、その表現されたもの自体に、現実よりも現実味を感じることがあります。美術史の一動向の「シュールレアリスム」に限らず、絵の中に現実を超えた現実を捉えようとする試みは常に行われてきた、とも言えます。絵の中の世界に入り込むことで鑑賞者は時代や次元を越えることが出来たり、自分ではない別の誰かの立場に立つことが可能になる。そんなことを考えさせられました。

 

 

 

 

 

2003年生まれ、2022年に都立総合芸術高等学校卒業、美術大学へ入学という共通点がある3人ですが、作品には、虚構と現実の境を無くす絵画の可能性、という共通点があるように感じました。事実よりも脳内で捉えられる虚構によって、私たちは世界を認識している。

 

教室や学校、に関連づけられる私個人の思い出として「大学のサークルの部室」があります。学生時代に教室よりも入り浸っていた部室なのですが、私の卒業と同時に部室があった建物は老朽化により取り壊されてしまいました。他の、取り壊されていない大学施設や教室などはたくさん残っているにもかかわらず、そういう場所には行こうとも思わず、行ったとしても「ああ、懐かしいな」くらいしか感じない気がするのです。でももう、取り壊されてなくなってしまった場所の記憶は、なぜか強烈に、匂いや細部に至るまでありありと思い出されます。思い出が強いから、とも言えそうですが、当時は複数のサークルに所属しており、取り壊されていない部室もあるのに、そちらのほうはそれほど強烈な印象はありません。まだ存在しているほうの部室は、その後年月を経て少しずつ変貌を遂げているだろうな、と想像出来るからなのかも知れません。取り壊された、今はもうない部室は、あの当時のまま何か目に見えない霊魂になって、それを知る人の脳裏に場所を移したのでしょうか?

 

冒頭にも書いたとおり、この展示室がある 3331 Arts Chiyoda は2023年の3月31日を過ぎると大規模な改修工事へと進んでいきます。1度でも足を踏み入れたことがある方は、その時の鑑賞体験と共に、この場所のことを強烈に思い出すようになるのかも知れません。本展は、取り壊し前の教室の思い出、それぞれ個人が持つ教室の思い出と相まって、場所と作品が相乗効果を生む絶妙な展示だと思いました。

 

会場にはゆっくり時間をかけて鑑賞出来るよう、椅子が置かれています。

 

CDケースに入ったカタログ。

CD-Rに自分のお気に入り楽曲を焼いて渡したりなどした時代を通ってきたので、とてもエモさを感じます。

 

中には各作家の詳細な紹介文やQRコードが掲載されておりOnline Galleryもあります (2023/02/21現在は準備中)。 秀逸なカタログ。


 

アート鑑賞を趣味にしている方は、3331 Arts Chiyoda に訪れたことがある方も多いと思います。本展「ROOM206」は、3331 Arts Chiyoda が日本のアートシーンへもたらしてくれた多大な影響を振り返りながら、また、そこから生まれる新しい息吹を感じることが出来る展示でした。建物がなくなった後には、さらに強烈な映像として各自の脳裏に焼き付くことでしょう。

 

ぜひ、足を運んでみてください。

 

 

 

 

 

展示風景画像:「ROOM206」あいろく葵/市川慧/大瀧七海


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