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感想 光藤雄介 個展「行間」

 

光藤雄介 個展「行間」

 

 

会 期:2022年10月6日(木) - 2022年10月16日(日)

時 間:12時-19時 (最終日17時終了) 

休 廊:月

場 所:msb gallery

展覧会URL:

https://www.msb-gallery.com/日本語/展覧会-space2-3/2022/


 

光藤雄介さんは1982年生まれ、多摩美術大学美術学部芸術学科卒業。数々の個展やグループ展で作品を発表されています。プロフィールを拝見して、2020年12月12日(土) から2021年5月29日(土)まで、都内某所で開催されていた「FACE UP」というグループ展に参加されていたことに反応してしまいました。「FACE UP」展は、開催場所を明言せず、24時間営業のお店と思しき場所に商品や什器などに紛れて作品がしれっと展示されている、というもので、光藤さんの他に、内山聡さん、益永梢子さん、大槻英世さん、川崎昭さん、タナカヤスオさんが参加されていました。私は見逃してしまっていて、益永梢子さんの個展を拝見した時にその存在を知り、内山聡さんの個展でその時の冊子を拝見したこともあって、私の中では伝説の展覧会という認識になりつつあります。

 

 

光藤雄介さんのプロフィール

 

会場のmsb galleryについて

日本橋本町 space2*3 での展示としては、本展が柿落としとなるようです。


 

本展「行間」では、まず作品を観てから、その後でギャラリーの方にタイトルを伺ったので、2度楽しむことが出来ました。

 

作品だけを観ても十分に感じるものがあり、その感じたことについて自身で楽しめるのと、タイトルを聞くと「なぜそのタイトルなのか」ということについて考え、もう一度じっくりその作品を見返して楽しめる、というものです。

 

ですのでまずタイトル抜きで画像を載せます。

 

 

(別角度より撮影)

 

(部分拡大)

 

(部分拡大)


 

(部分拡大)

 

(部分拡大)


 

(部分拡大)

 

(部分拡大)


 

(部分拡大)

 

(部分拡大)


 

 

どうでしょうか。

 

私はタイトルを知らないうちは、何か狂気のようなものを感じました。「これ、描いているのだよなぁ」という見方です。会場には少しだけ、マジックペンの匂いのような、薬品を感じさせる空気感も漂っていました。定規を使っているにしても、作品からは緊張感が感じられます。なぜ、これを手描きしているのか? なかなかに狂ってるよなぁ、と。そしてそんな張り詰めた狂気の中にも、インクのたまり部分や、シルバー色の斜線部分からはフリーハンドっぽさも感じられ、生身の人間らしさも感じられました。

 

 

 

では、タイトルです。ある意味ネタバレかも知れないので、地の色に近い文字で載せておきます。読みづらい場合は、カーソルを当てたり、拡大するなどして読んでください。観に行く予定の方は、この部分はすっ飛ばすことをおススメします。

 

掲載順に

 

「感電」

「隠し事」

「紳士」

「抱擁」

「考え事」

 

でした。

 

 

 

ちょっと戻って確認してみたくなりませんか? 私はそうなりました。ちょっと待って、えぇ? そんな感じでしたっけ? というように。そして、もう一度鑑賞しながら、自分なりの納得ポイントを探してしまうのです。

 

この、タイトルと作品を再確認する、という行為にも、実際には個人差が出るのではないかと思っています。細部により注目するのか、距離をとって雰囲気を捉えようとするのか、他の作品との相違点から読み解こうとするのか。

 

 

 

もう1作品、オフィスのほうに、隠れて展示されている作品があります。この作品はギャラリーの方に見せてもらってください。タイトルはあえて載せないことにしました。考えるのもすごく楽しい。

 

この作品、いろいろ観て考えた後に、パッと目を合わせるとタイトルがすっと入ってくる気がする、、、おっと。

 

 

 

光藤さんによるステートメントにはこんなことが書かれていました。

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少年の頃、サビキ釣りで100匹余りの鯖を釣りました。同じ形をした疑似餌に、同じ形の魚達が次々と食いついてくるのです。彼らは皆一様に「鯖」でありながら、少し目が大きかったり、少し体が長かったり、それは豊かな個体差を私に魅せてくれました。

ところで私の制作は特別なものではありません。私は単に譜面をつくっているだけなのです。紙の上にペンを立て、その譜面を何度も繰り返し演奏しているだけなのです。同じ紙でも大きさが違います。大きさが同じでも個体差が生まれます。

わたしにも/あなたにも、明日起きてから行く場所があり、やりたい事があるでしょう。それが特別な事でなくとも、面白くなくとも、意味すらなくとも、肯定して良いのです。そこには必ず個体差があるからです。

まずは実践しておみせします。

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譜面かぁ。確かに、光藤さんの制作風景動画を観ると、ペンを走らす音、引き終わりの音などが音楽のように聴こえます。

作品自体を譜面として捉えると、また違った音が聴こえてくるかも知れません。そう考えると何回でも楽しめる作品群ですね。

 

 

 

ステートメントにもあるように、線を引くという行為は特別なことではないのかも知れませんし、それぞれの線に大きな差は生まれないのかも知れない、けれども、必ずどこかに違いはあって、そこから感じ取れるものがあったり、タイトルから概念的なものと結びつけて考えることも出来たり、それぞれの作品や線に対して区別をつけることも可能です。そのことに気付かされた展示でしたし、特別なことをしなくてもあなたはあなただ、と励まされたように感じるステートメントでもありました。何だか、鈴木大拙の言葉を思い出してしまう。

 

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なんでもない仕事、それが最も大切なのです。何か人の目を驚かす、というようなものでなくてよいのです。

 この節は、人々の目を引くようなことをやらぬと、立派でないように考える人もあります。あるいは、何でも異常なことでも申さぬと偉い人になれぬと思うのです。

 われわれの一生というものは、なにも目を驚かして、偉い者になろうとか、なったとかいうところにあるのでなくして、日々の仕事をやることが一番です。

 

(『はじめての大拙 鈴木大拙 自然のままに生きていく 一〇八の言葉』第四章 より抜粋)

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光藤さんの描く線は、特別なものではないのかも知れない、ですが、それらの線が織りなす譜面からは、刺激、行為、感情、人の性格、出来事、などが感じられ、「生きている」という音が奏でられているようでした。まさに「行間」を読むことを試みてしまう展示です。

 

 

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「線と線のあいだに、見えない線がある。それはあなたの目のなかで、いつまでも明滅している。」

光藤雄介

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「行間」の読み方は人それぞれ。ぜひ、足を運んでみてください。

 

 

 

展示風景画像:光藤雄介 個展「行間」


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