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感想 益永梢子 個展 「editing」

 

益永梢子 個展 「editing」

 

会 期:2022年1月21日(金) - 2022年2月13日(日),

    2月18日(金),19日(土),20日(日)

時 間:12時-18時

休 廊:月火,2月16日(水),17日(木)

場 所:nidi gallery

展覧会URL:

https://nidigallery.com/news/20220121


当サイトでの益永梢子さんの展覧会レビューは2回目。益永さんは絵画というものを様々な角度から捉え直し、観る者に思考を促すような作品を制作されています。2021年の11月に拝見した個展「replace」も、物理的に組み替え可能でかつ支持体とモチーフが入れ替わって見える錯覚などを利用し動的な絵画を目指したもので、作品が置かれることになるスペースをまずはじめに観てから思考し制作に取り掛かったという作品群からは、会場であるギャラリーの形状との関係性を観る者に自然と意識させ、建物の内にいながら外を感じる、瞑想のような感覚を起こさせるものでした。

 

本展「editing」では、クリップやバインダーの金具で綴じられたキャンバス作品が並びます。まるで仮止めされているその状態は、作家がギャラリー内でその場で最後の仕上げをしたようにも感じられますが、実際には、台に置かれた2作品を除き、ほとんどの作品がギャラリーでは手を加えずアトリエで仕上げられたものをそのまま設置したそうです。

 

左:「Till」 右:「Whenever」

「That」


「Or」

「Or」(部分拡大)


「Because」

「Because」別角度より撮影


 

一般的な作品の設置と同様、アトリエで仕上げたものをギャラリーに設置するという方法が取られているにもかかわらず、今の今まで作家の手が入っていたような生生しさがあります。キャンバス地のしなりや丸まりは、形状をがっちり固定されているわけではないので、ひょっとしたら鑑賞している自分の息や動きによって起こる空気の流れでも形が変わってしまうのではないかと緊張感を持ちながら鑑賞しました。クリップやバインダーによる固定は、仮止め、可変、フラジャイルという印象を想起させます。

 

冬の空調の暖かい風のためか、実際に会期中に形が変化している作品もあるそうです。

 

「Therefore」

こちらの作品がその一つなのですが


右手前:「Therefore」別角度より撮影

横から見ると右上部のキャンバスの角が前におじぎをするような形で丸まってきています。

「Therefore」別角度より撮影

裏面に描かれたこの矢印のペイントは、会期の初期にははっきりと見えなかったそうです。


「Wherever」

こちらの作品も、前方へのせり出しやキャンバスのしなりの変化がすごそう。

「Wherever」別角度より撮影

横から観るとこのような形状になっています。グレーに塗られたフチと塗られていないフチ、鉛筆の線など、描かれた人為的な要素と、しなってくるキャンバスという自然的な要素とのバランスで作品が成り立っています。


 

こちらの作品の並びは何だか顔のように見えるので、それぞれの形が微妙に変化して表情が変わってくるとしたら面白いですね。

左より:「Considering」「Meanwhile」「As」「Directly」

「As」

ホクロのような、潰した吹き出物のような位置にある作品。

「Meanwhile」

こちらの作品は鼻と口に見えます。口と思った下部の赤い線の曲がり具合が変化するとまた違った印象になりそう。


台に置かれた2作品。



バインダーの留め具に綴じられたキャンバス、という構造は同じでも、壁に展示されている作品は息もかからないように注意深く観ていたのですが、手が届くちょうどよい高さの台に乗せられると今度は触ってめくりたい衝動にかられます。資料をめくるような感覚です。刷り込みって怖い。もちろん、触れてはいけません。

 


こちらの作品も同様、めくりたい。または、コピー機にセットした厚みのある資料を見ているようで、上からぎゅっと抑えたい気持ちになります。作品にはくれぐれも手を触れぬようお願いします。本展で触ってよい作品はありません。

 

台に置かれた作品と、壁に等間隔で並べられた作品の見え方の違いはこのような感じです。

「After」


 

作品「After」については、益永さんは自身のツイッター

 

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この作品は時間をかけて左上が手前にせり出して右側に斜めに倒れてくるのではないかと予測しています。

その速度を遅らせる為、また倒れてきた時に別の形態の作品になるよう裏側にペイントしています。物理的な理由で図像が決まる、そんな絵があっても良いのではないでしょうか。

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と言及しています。

 

「After」別角度より撮影

キャンバスの織りの向きのためか、裏側のペイントが功を奏したのか、私が鑑賞した際には倒れては来ていないようでした。逆にどんなペイントがなされていたのか知りたい、、、。


「Unless」

「Before」


「Moreover」

「For」


 

「editing」=編集中、と題された本展は、まさに変化の最中にあり、展覧会が終了した後も変化し続ける作品展です。副詞や前置詞の作品タイトルが、それだけでは「何か」という確実な物事を表していないことを示しています。作家の手を離れた後の物理的な条件に拠る変化の部分を大きく取り上げた展覧会と言えるでしょう。可変を意図しない他の作品でさえも日焼けや湿度などの条件で物理的な変化は免れないのですが、その変化は劣化としてネガティブに捉えられています。しかし、本展で示された変化の過程は「別の形態の作品」として「見てみたい」とまで思えるポジティブなものでした。作家のアトリエから離れた作品はどう「ある」のがよいのか。物理的変化を嫌って永遠に収蔵庫に置かれることがベストではないと思いますが、作品は鑑賞されることで完成する、のであれば、作品の所有者がどのように飾ってきたか (または保管してきたか) などの歴史を経て作品が完成していくということもあると思います。

 

収蔵や保管の問題までを含めた絵画の性質を改めて考えさせられる展示でした。

 

会期は2月13日 (日) まで延期され、2月18日(金) 〜 20日(日) の3日間も追加で展示されます。生きている作品を観に、ぜひ足を運んでみてください。

 

 

展示風景画像:益永梢子 個展 「editing」


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