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感想 髙橋恭司 個展「Ghost」

 

髙橋恭司 個展「Ghost」

 

会 期:2022年9月16日(金) - 2022年10月16日(日)

時 間:水-土 11時-19時  日 12時-18時 

休 廊:月火祝

場 所:LOKO GALLERY

展覧会URL:

https://lokogallery.com/archives/exhibitions/ghost

 


 

髙橋恭司さんは1960年⽣まれ。もし、その名を知らないとしても、髙橋さんの写真を雑誌で見たことがある方は多いと思います。インターネットがほとんど普及していなかった1990年代において、音楽、ファッション、カルチャーは雑誌を通して拡散されていくものでした。

 

本展「Ghost」では、そんな90年代のフォッション・カルチャーを代表する国内外の著名媒体に作品を発表し、後進の写真家たちに多⼤な影響を与えた髙橋さんの、過去作から近年の作品までが展示されています。

 

 

「時代の引っ越し」(部分)

会場のLOKO GALLERYさんの地下にあるカフェスペースでのインスタレーション部分。段ボールから雑誌がこぼれ出しています。

 

「時代の引っ越し」(部分)

 

「時代の引っ越し」(部分)

うぅ、インスタグラム等から感じるものとはまた全然違う、このかっこよさ。私がちょうど90年代の雑誌カルチャーと共に思春期を過ごした世代だから、余計に気持ちが昂るのでしょうか? デジタルネイティブ世代にはどう見えるのかな? かっこいいよね。


 

 

過去の作品の中には、すでにオリジナルフィルムを髙橋さん自身の手で焼却してしまっているものも多いそうです。

 

 

左:「Window and Flowers」 右:「Mika」

ウッドの額の作品は過去作品。

 

 

「Derek German's room」

Derek Jarman はイギリスの映像作家で、The Smithsのミュージッククリップなどでもよく知られています。1994年に52歳でエイズにより亡くなってしまいましたが、生前、イギリス南東部のダンジネスに Derek Jarman が建てた「Prospect Cottage」は、素朴かつ丁寧な造園や室内の装飾が施されており、訪れる者にインスピレーションを与えてきました。その「Prospect Cottage」を撮影した写真 (1991年)。「Prospect Cottage」はその後、維持という問題をクラウドファンディングにより乗り越え、Derek Jarman のドローイング、写真などはテートが管理しています。

 

 

下記リンクはDerek JarmanによるThe Smithsのミュージッククリップ集。花の表現も多く見られ、本展の作品との関連性を探る鍵があるかも知れません。

 

「Flowers」

階下から見上げた図。

 

「Flowers」(別角度より撮影)

2022年の新作は額が白になっています。


 

「Jiro Kimura's Garden」

 

「The Clouds」

写真をさらに写した画像 (そして反射映り込みあり) を掲載してますので、実際の作品のほうがもう何億倍も素晴らしく、実物を観に行かれることを強くおすすめします。私のスマホではゴーストを捉えることは出来なかった、、、。

 

 

「Jean's hand, NYC」

 

「The Bible, Armenia」


 

「Shibuya」

この作品好きです。タイトルにある「Shibuya」という場所の印象との意外性。渋谷のイメージを跳ね返してしまうような像のゴーストが感じられます。

 

「Gauge」


 

「Howard Finster, Paradise garden」

 

「New York」

工事現場のようなところから、中央にエンパイア・ステート・ビルが望める構図。何か宗教的なアイコンにも見えてきます。右に、四角く別の場所のようなものが写っていて(この画像では不明瞭です) 人間の脳内を俯瞰しているようにも感じました。


 

「Gauge」

 

「Alvar Aalto, Villa Mairea」

アルヴァ・アアルトが、グリクセン夫妻の申し出により実験的な試みで設計することが出来たとされる建築「マイレア邸」。検索すると明るい画像ばかりが出てきます (→参考Pinterest )。こんなにも暗くかっこよく、植物の湿度までが伝わってくるような、場のゴーストを撮影出来る髙橋さんの凄さ。


 

「Harley-Davidson」

偶然ですが、少し開いたドアから漏れた外の光が反射してこのような画像になりました。映り込みすらかっこよくしてしまう作品のゴースト。

 

「Harley-Davidson」(別角度より撮影)

Harley-Davidsonが部分的に写されていますが、ドラムセットや管楽器のようにも見えます。色気を感じる。


 

 

1階に展示されている過去作品は、光の表現が特徴的で、全体的に暗い画面の中に明暗の差を出しているところなどから、バロック時代の絵画のような印象を受けました。前述の映像作家 Derek Jarman がバロック時代を代表する画家「カラヴァッジオ」の映画を撮っていたりするのも興味深いです。カラヴァッジオ → Derek Jarman → 髙橋恭司さん と繋がっているかも知れません。

 

 

本展「Ghost」のタイトルの通り、それぞれの物や場所にゴースト (霊魂) を感じる作品群でした。良い写真の条件って何なのか? このゴーストが感じられるかどうか、なのかしら? そんなことを考えながら2階へ。

 

 

額の色が白なので、新作です。花を写した作品が並びます。

 

 

 

「Flower」

映り込みが激しいですが、ご容赦ください。おや、、、何か、また違う印象が。

 

「Flower」

花の写真、ではあるけど、絵の具が滲んでいるような表現に見えます。


 

「Flowers」

筆跡が見えるような錯覚。

 

「Flowers」

絵だわ。


 

「Flower」

背景の色と花びらの影の境界線がなく、絵の具が混ざったかのようで、とても美しい。

 

「Flower」

こちらの作品は背景の滲み、淡い花の色など、本当に絵のように観てしまう、、、。


 

「Flower」

この作品はぜひ実物を観てほしいです。画像だと映り込みしか捉えられてないですが、微妙な色の差で浮かび上がってくる花の表現は、私の中では写真ではなくもはや油絵です。


 

 

何か、先ほどの疑問「良い (と感じる) 写真の条件」の答えにまた近づけた気がしました。例えば絵の鑑賞は、実際に描くという行為の結果を観ているので、筆跡などから作家の息づかいが感じられたりします。身体性、なんて言ったりしますが、絵を観た時に、作家の身体性が感じられ、観る側もその描く行為を追体験することで、色々な思いを感じられる。これは、写実的に描くことが求められた時代の、筆跡がないほうが良いとされた昔の絵画でも、当てはめて考えることが出来ます。これを描きたかったのだな、とか、ここまで神経を使って描いているんだな、いう作家の美意識が感じられるのです。また、筆跡を残してある作品からは、勢い、パッション、心情などがよりダイレクトに伝わって来ます。逆に写真はその身体性を感じにくい。観る側が、撮影者の「シャッターを切るという行為」しか想像出来なかった場合、伝わってくる情報も少ないような気がしています。実際には、その場に行くとか、居合わせるとか、決定的な瞬間に対する反射的運動とか、どこにフォーカスしているかとか、画面への収め方など、シャッターを切るまでにも撮影者の身体性を感じる作品はあると思います。髙橋さんの作品からはさらに、写真であるのに「筆跡」のような身体性が感じられる。撮影から始まり、暗室での現像および引き伸ばしなどの⼯程を⾃ら⾏うことなどもあわせて、「絵を描いている」。「絵を描く」ことに成功した写真が、「良い (と感じられる) 写真」なのではないか。 

 

髙橋さんの過去の作品は、細かい描写や光の表現に特徴がある絵画であり、新作の花を撮った作品は滲みやぼかしの表現を用いた印象派のような絵画、という表現の違いを感じました。

 

過去の作品のフィルムの多くが髙橋さん本人の手で焼却済みで再プリントが出来なくなっていることに意図はなかったのかも知れませんが、プリントすることで完成し、「絵を描く」ことに成功した写真作品と考えると、もうフィルムがないことが必然であるように結びつけて考えてしまいます。

 

 

「Flowers」

2階の同フロアにある作品。額縁がダークなウッド調なので過去作品、こちらは1991年の「Flowers」です。描写の違いを感じられます。


 

 


あれ、そう言えば、LOKO GALLERYさんのEXHIBITIONSページのメインイメージの作品がないな、、、?

 

 

この作品 (のプリント) が見あたらない。と思ったら↓

どれもゴーストを感じる作品ばかりです。


 

 

本展にあわせて、500部限定の写真集「Ghost」が出版されており、そちらを求めに扉を開けてギャラリーのオフィスを訪ねたところ、そこに作品が数点飾られていました。

 

件のメインイメージの作品もオフィス内にあります (画像は撮らなかったので、ぜひ見せてもらってください) 。

 

 

写真集、購入出来ました。東京藝術大学教授で写真史の著書も多数手がけられた伊藤俊治さんによる「霊の流れる証」という評も掲載されています。


 

 

写真で絵を描く髙橋さん。本展にはペインティング作品も展示されています。

 

「The Sun and the Moon」

 

「Ghost」


 

 

ゴーストを見ることが出来る人が描いた絵にはゴーストが描かれているか。ゴーストを見ることが出来る人が撮った写真にはゴーストが写っているか。おそらく、答えは両方イエスであると思います。作家により見えているゴーストの種類は異なっているのかも知れない。そして鑑賞者は、自らもゴーストになり作品を通して作家に乗り移ることで、作家の目を通して、もう一度世界と出会い直すことが出来る。

 

 

会期中は、髙橋さんと様々なゲストによる予約不要のトークイベントも複数回開催されるようです (詳細はLOKO GALLERYさんのページにて)。ぜひ、足を運んでみてください。

 

 

 

展示風景画像:髙橋恭司 個展「Ghost」


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