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感想 木村俊幸 個展「家族審議会」

 

木村俊幸 個展「家族審議会」

 

会 期:2022年5月13日(金) - 2022年6月11日(土)

時 間:12時-18時

休 廊:日月祝 

場 所:CLEAR GALLERY TOKYO

展覧会URL:

https://cleargallerytokyo.com/toshiyukikimura-2022


 

木村俊幸さんは1969年生まれ。現代美術家であり、VFX監督、マットアーティストとしても数々の特撮/VFXを手掛けられています。マットアーティストとはなんぞや、というと (マッ「ド」アーティストじゃないですよ) 、「マットペイント」というものがありまして、実写映画において、実際には撮影不可能な廃墟の内部や空想上の背景、建物等を描いて合成する技術のこと、またはその描かれた背景のことを指します。マットペイントを描く人がマットペインター、マットアーティストというわけです。

 

木村さんはマットペイントやVFX (ビジュアル・エフェクツ) で長年、映画や映像作品に携わって来られた方で、その作品例として、平成ゴジラシリーズ、「リング」、「ドラゴンヘッド」、「CASSHERN」、「どろろ」、宇多田ヒカルのMV、サウンドノベルゲーム「弟切草-蘇生篇-」等などがあります。今までに一度は木村さんのマットペイントを観ている方も多いのではないでしょうか。

 

また、VFX studio LOOPHOLEを設立し、併設のギャラリーにて展覧会の企画、若手作家の支援なども行っておられます。OJUNさんと共著もされていて、現代美術にも造詣の深い作家です。

 

本展「家族審議会」は、2009年に木村さんが創り出した「MATIM (メイティム) 」との23回目の交信です。「MATIM」とは英語のmateを語源とした木村さんによる造語で、「ある種の繋がりを意味し、いつのまにか人、社会、世界を侵食していく組織、活動、思想、運動、宇宙のような、実態の定かではない存在 (MATIM 6th contact  Nengraphy「念写」プレスリリースより抜粋) 」のことです。めちゃくちゃわくわくします。

 

木村さんご本人が在廊されていて、各作品について、非常に興味深いお話を伺うことができました。

 

「Baal Code」

DMの下方にも掲載されていたこちらの作品はバーコードを描いたもの。タイトルの「Baal Code」ですが、「Baalという古代文明の神で、キリスト教では異端の悪魔とされた神の名をバーコードと掛け合わせて(木村さんのインスタグラムより抜粋)」いるとのこと。この作品以外にも本展の作品タイトルの英語表記はスペルが微妙に変えられている (?) 箇所もあるんですが、それらもMATIMの暗号でしょうか。

 

「マスチャイルド家の陰謀/The Mass Child' s Consplacy」

マスチャイルド、、、。他にもミスチャイルドとかメスチャイルド、、、等が存在するそうです。第三の目 ( = 第六チャクラ) が開きまくってますね。一番左端にはっきりと描かれている人物が一番偉い人。人物の薄さは存在感の薄さとリンクしていて、右端の人物は家族審議会にちょっと遅刻して来て、微妙に始まってからしれっと参加した人だそうです。ありますね、そういう時。いきなりの親近感。ん? とすると、右から2番目の人もちょっと遅れて参加したように見えるんですが、強めの視線に「めっちゃ真剣に参加してます感」を出してきてる。「陰謀」というタイトルからもすごく気難しそうなのに、時間にはルーズな一家。

 

「カーペンターズ/Carpenters」

BGMは「Top of The  World」でしょうか。大工さん達が家を建てているんですが、ひょっとして妖精さんなんじゃないか? 歯の妖精とか靴の小人とかの類では? との疑惑があり、家族審議会で議題に挙がりました。

 

「カーペンターズ/Carpenters」(部分拡大)

働いている大工さん。近づいて画像を撮ったら微妙に色調が変わってしまいました (わざとではありません)。MATIMからの警告だったのか。


 

左:「家族審議会/Family Council」 右:「朗読者/Chairperson」

 

「家族審議会/Family Council」

人物の濃さは存在感を表す。ということで、左から2番目の少女のように見える人物がここでは一番偉い人です。やばい。違う人に媚びを売るところでした。

 

「家族審議会/Family Council」(部分拡大)

しょーもない議題や回答に対して「それで?」と威圧しているの図。なんかほんとに申し訳ありませんした!


 

「朗読者/Chairperson」

朗読者とあるから、議題を読み上げているのかな。英語表記タイトルは「議長」となってますね。ちょっと小品だったのでまたしても甘く見てましたが輪郭もはっきりと濃いし、この人が陰で仕切っている?


 

左:「ブレイカブル/Breakable」 右:「集合写真/Group pohtograph」

 

「ブレイカブル/Breakable」

木村さんといえば映画。会場ではスルーしてしまいましたが、本記事を書く際にこのタイトルを見て、もうM・ナイト・シャマラン監督の「アンブレイカブル」しか思いつかない。ということはこれは「Mr.Glass」?

映画のネタバレになるのではっきりとは書きませんが、「アンブレイカブル」内でMr.Glass が世界中で起こしたことが、隣の作品「集合写真/Group pohtograph」に繋がっているのか!

 

「集合写真/Group pohtograph」

「チャレンジャー号の乗組員が宇宙で生きていたらいいな」という話を伺いましたが、ここに描かれているのは10人で (1986年のチャレンジャー号爆発時の乗組員は7人) 顔もちょっと違うようです。審議会に呼ばれた現役の方々、ということかしら (こういう時事の細かいところが咄嗟に出ないので詳しく聞きそびれました、、、未熟) 。


 

「監視者/Watch man」

解体されたランドセル。初見ではランドセルと気づかなかった。革の感じと組み合わせた葡萄などがかっこいい。

 

「監視者/Watch man」(部分拡大)

この貝の部分から武田久美子さんの貝殻の水着が連想され、、、(濱口健さんの個展でも出て来たパワーワード)

 


隣接したディスプレイの、このVHSジャケットの裏、にリンクします。

 

左:「Herical scaner」

ヘリカル (正 : Helical) は螺旋。テープ上をビデオヘッドが螺旋状に走行して記録するメカニズムがヘリカルスキャン方式。ヘッドに対して斜めにテープを巻き付けます。ヘッドを高速で回転させることにより、相対速度が稼げるため記録密度を高くとれる利点があります。作品では、斜めに巻かれたキャンバス地が見えますね。

右のVINYLは、ジャケットを木村さんが担当した、C.S.S.O.というグラインドコアバンドのものです。タイトル『ARE YOU EXCREMENTS?』は「あなたはクソ野郎ですか?」という意味。


 

「スチュワーデス/Stewerdess」

「2001年宇宙の旅」に出てくるフライトアテンダントさんのイメージです。この女優さんの顔が好きで、しかも似ているクラスメートが「インド人」とからかわれていた、という木村さんのエピソードを伺いました。少年時の初恋に対する自身のイメージの膨張を、ある意味、終わりにするためにも描いた、とのこと。脳内イメージのハイブリッド感が現れていますね。

 

「Quiet Zone - Mr.Margin -」

キャンバスの上下に見られる余白 (マージン) 。本展の他作品にもこのような上下の特徴的な区画が見られます。タイトルにある「クワイエットゾーン」とはバーコードの左右に設けられた余白のことで、これがないと正確に読み取ることが出来ません。MATIMではこの上下を含めMATIMフレームという規格があるそうです。


 

展示風景

デスクや随所にある古美術品等も、すべて木村さんの私物。

 

水牛の角と蛍光色のキャップの組み合わせ。

 

VHSの映画コレクション。


モニタではVHSが再生中。木村さんが在廊されている時に限り、好きな映画をリクエスト可です。このモニタの画面もMATIMフレームです。

机上には画集『MATIM -SAY YES-』(東京都現代美術館/府中市美術館/金沢21世紀美術館にも所蔵) が置かれています。分厚い! 白手袋をして閲覧可。引き出しの中にも作品があります。


 

「ハウス/HOUSE」

モニタ越しに見える作品。VHS映像って、つい最近まではスタンダードだったのに、改めて見返してみると粗くて新鮮。ヴィンテージみたいな渋さがあります。木村さんは自身の作品の解像度や色彩がVHSのそれと同じように感じるそうです。後輩のマットペインターさんが来廊されていてモニタ再生映画に「Tron」をリクエスト、偶然の出来事でしたが、暗めの画面に蛍光に光る線、という映像がこの「ハウス/HOUSE」の黄色い線にもリンクして、蛍光色というわけではないレモンイエローの絵の具まで光って見えるという不思議現象が起きました。

 

木村さんのインスタグラムで「Naked Lunch」(邦題 : 「裸のランチ」) にも言及されていたのでちょっと調べてみましたが、原作にはウィリアム・バロウズによる、カットアップ (文章をバラバラに刻んでランダムに繋げる) という手法を使った意味不明な本『Naked Lunch』があり、それよりはまだ意味がわかるという、デヴィッド・クローネンバーグ監督のほぼオリジナルの映画作品、ということでした。虫?の社長とか出てくるんですよ、、、。本も映画もだいぶ面白そうなのでチェックしたいと思います。

 

モニタ裏にも古物が。いや、VHSデッキの妖精さん、精霊のようなものか。七福神の布袋さんに似ている。

 

奥にまだ続きます。


 

「蘇る農夫/Zombie Framer」

フィンセント・ファン・ゴッホの「パシアンス・エスカリエの肖像」がゾンビになって蘇っております。ゴッホとデスメタルの融合。

 

左:「SATORU & SARTRE」 右:「binding」


 

展示風景

これらもゴッホの作品が元となっています。左の作品には「ジャガイモを食べる人々」などでよく出てくる女性が。ジャガイモには特殊な能力を高める効能があるという説があるそうです! 知らなかった、、、。

 

「Holly Mounting」


 

「あの娘の書/Evangelium about DUDE-GIRL」

この下の台とのバランス、見せ方かっこいいなぁ。Evangelium は、福音書の意味。

 

「あの娘の書/Evangelium about DUDE-GIRL」

地下室に軟禁されSNSで訴えることも出来ないような状態のあの娘。思いを書き連ね、MATIMとも独自に交信をするようになる。これは彼女の肉筆による記録である。


 

『MATIM - 聴衆令嬢戦記 -』

木村さんによる書籍。

 

『MATIM - 聴衆令嬢戦記 -』

木村さん曰く、ページ数はそれほどでもないのに、読んだ友人は悉く半分くらいで寝落ちしたと言うそうです。すごい気になる、、、。前述の『Naked Lunch』と共に、読みたいリストに入れます。


 

「アトムの子/A Child of Atom」

 

「Mothers of the Disappeared」


 

「ヤマビコ/echoes」

 

「Warp」


 

全作品を紹介しきれない、、、! いや、MATIM 23回目の交信の全記録を紹介しきれない、と言うべきか。奥深く、知恵熱が出そうな展示でした。でも、お勉強的な退屈さは一切なく木村さんのお話もめちゃくちゃ面白かったです。

 

アーティストは何を作っているのか? というと「作品」なんですが、本展では、MATIMという組織、世界観という「作品」が楽しめます。そして、木村さんの作品を通して映画や本という他メディアへの新たな好奇心が湧き、それがまた巡って木村さんの作品への理解、興味に還元されていくという、カルチャー間の密接な絡み合いを感じました。人生の楽しみが広がるイメージです。

 

やっぱり、アートは楽しい、カルチャーは楽しい! と再確認出来る展覧会でした。MATIMに思考が侵食される可能性はありますが笑、ぜひ、足を運んでみてください。

 

 

展示風景画像:木村俊幸 個展「家族審議会」


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