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感想 李漢強 Lee Kan Kyo 個展「NFT」

 

李漢強 Lee Kan Kyo 個展「NFT」

 

 

会 期:2022年3月26日(土) - 2022年4月10日(日)

時 間:12時-18時

休 廊:月火水

場 所:WISH LESS gallery

展覧会URL:

https://wish-less.com/archives/8725


 

李漢強さんは台湾出身、東京造形大学大学院(造形専攻)を修了。スーパーマーケットなど量販店のチラシを描いたペインティングや、世界各都市の個性溢れる車を描いた作品、連日野菜ジュースを飲む自身の画像で制作された異色のトランプなど、見た目もコンセプトも興味をそそられる作品で知られています。本展開催の2022年は、世界的なスケートボードアパレルSupremeの春夏コレクションに作品が起用されたことでも話題になっている作家です。

 

本展のタイトルは「NFT」。昨今話題のNon-Fungible Token = 複製や偽造が容易なデジタルデータにブロックチェーン技術を用いることで紐付けを行い「唯一無二」であることを証明可能にしたデジタル資産、、、、、、というわけではなさそうです。ステートメントによると

 

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ところで、こんなことを友達から聞いたんだ、“NFT はすごいよ。手軽にめちゃくちゃ儲かるし、 早くやらないと流行りに乗り遅れちゃうぞ”って。

家の庭に石油が湧いてきたみたいに景気のいい話 ! なにその NFT って !

楽しそうだしやるなら 早くやろう ! わたしの NFT !!

(ステートメントより抜粋)

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と、李さん独自のNFTの解釈が提示された展覧会ということのようです。このステートメント文からは昨今のNFTブームを一歩引いた形で見ているような雰囲気も感じられます。たまたま流れて来たツイッターのタイムラインで、当サイトでもレビューしたことがあるたかくらかずきさんとお知り合いなのかな? と思うところがあり、たかくらさんが美術手帖のWeb記事「NFTは新たな信仰のかたちとなるか」を書かれていたり、NFTの盛り上がりをとてもポジティブに捉えられていることも考えると、結構身近なところでNFTに触れる機会もあったのかもしれませんね。

 

注:本展には前述の「ブロックチェーン技術を用いたデジタル資産」という意味でのNFT作品はありません (一応明記) 。

 

 

李さんのNFTとは?

まずはNFTの「N」から観ていきましょう。

 

左奥:「NETFLIX DVD CASE (96枚入)」 中央:「NET/ネット」

 

コロナ禍の約2年間、おうち時間が充実した方も多いのではないでしょうか? 李さんのステートメントを再度引用しますと

 

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コロナの2年間、みなさんは何をしてましたか? 私はといえば、ほとんどがおうち時間で、「イカゲーム」観たり、「5時に夢中 !」観たり、「マトリックス」借りたり、「ドクターX」観たり、「ヒルナンデス !」観たり、「アべンジャーズ」借りたり、そんな生活でした。

(ステートメントより抜粋)

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とあります。

 

「N」は「イカゲーム」などが話題だったNETFLIXの「N」です。

 

「NETFLIX DVD CASE (96枚入)」

 

「NETFLIX DVD CASE (96枚入)」(部分拡大)


中にDVDは入ってないそうですが96枚入る容量とのこと!

あれ、NETFLIXって大量のDVDを持って来てもらうことで色々な映像が鑑賞できるというサービス、でしたっけ?

 

 

会場の真ん中にどん!とインパクト大で展示されている「NET/ネット」という作品は、NETFLIXで見られる映画一覧のアイコン画像を手描きしたものをNET (網) 状に配置しています。観たことある映画を探してしまう。最近のアニメも多くてつい反応してしまいました。

 

「NET/ネット」(部分拡大)

 

「NET/ネット」(部分拡大)


 

「NET/ネット」(部分拡大)

 

「NET/ネット」(部分拡大)


 

 

続いて「F」は、、、

 

上:「New!/新作」 下:「F JAPAN」

 

エックス、、、じゃない、F JAPAN、、、? 笑。

 

 

「F JAPAN」(部分)

モニタにはエンドロールのような映像が。「F」で始まる芸能人の名前がずらっと流れて行きます。F JAPANってそういうことか。白字で名前を書いた黒い紙を手で送って動かすというアナログな手法で撮影した映像だそうです。

 

「F JAPAN」(部分)

モニタ前のファイルには「F」で始まる名前の芸能人のプロフィール写真が。プロフィール写真はネットからの拾い物だそうで、画像が極端に粗いものもあったりします。存じ上げない方もちらほらいて、めくっていくだけでも面白い。


 

「F JAPAN」(部分)

ファイルはこの厚さで4冊。は行じゃなくて「F=ふ」のみなのに、芸能人ってこんなにたくさんいるんですね!

 

先のステートメントには

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「5時に夢中 !」観たり、(中略)「ヒルナンデス !」観たり、

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とあるので、動画やTVバラエティも含めて芸能人をよく観たということかもしれません。展覧会のキービジュアルにフワちゃん (F ! が描かれているのはそういうことか、、、。

 

李漢強 個展「NFT」キービジュアル


 

 

最後の「T」です。

 

ステートメントには「観たり」という表現と区別して

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「マトリックス」借りたり、(中略)「アべンジャーズ」借りたり、

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というように「借りたり」という表現があります。ということは、、、

 

上から

「Rental DVD shop sign」

「DVD VIDEO (Green) 」「DVD VIDEO (Pink) 」「DVD VIDEO (Yellow) 」

「Bootleg DVD ZINE」

「T」です。間違いない。

 

 

「Bootleg DVD ZINE」

新作あるー!

 

「Bootleg DVD ZINE」

これらはTSUTAYAで使われていた本物のケースを中古で手に入れて制作されているそうです。


 

「Bootleg DVD ZINE」

中もちゃんと入ってます!

 

「Bootleg DVD ZINE」


 

「本物の証明が可能になり資産として認められたデジタルデータ」との対比として、これらのDVDの作品は「複製や偽造が容易であるデジタルデータ」の象徴のような気がします。でも実際は手描きによるペインティング作品、複製が難しいアナログの作品です。

 

左から

「TSUTAYA recommend A」「TSUTAYA recommend B」「Under Siege/沈黙の戦艦

 

「TSUTAYA recommend A」

 

「TSUTAYA recommend B」


 

「Under Siege/沈黙の戦艦


 

 

会場には、台湾の新聞に掲載されている映画のタイムテーブルを描いた作品もあります。

 

「Movie times in newspaper/新聞の映画欄」

大きい。H160.3cm × W100cm。

 

「Movie times in newspaper/新聞の映画欄」(部分拡大)

遠目に見ると印刷された新聞そのものみたいです。

 

「Movie times in newspaper/新聞の映画欄」(部分拡大)

全手描き。


 

こちらの「Movie times in newspaper/新聞の映画欄」や量販店のチラシシリーズを縮小プリントしたものもありました。



 

名車いろいろ。

 

野菜ジューストランプ。


 

私が伺った日は「リーカード」イベントが開催されていました。李さんが希望者の手持ちのカードを元にその場で描いて作成してくれるリーカード。カード入手後、展覧会やイベントなどで李さんに会うとポイントが貯まっていくシステム。5ポイント貯めるとカードをもう1枚作成してもらえるというものです。大人気のため、当日は予約でいっぱいでした。

 

この看板に描かれているQRコードも手描きなのですが、なんとスマホは反応した、、、! 描かれた方々とカードの写真を記録しているIGリンクに飛びます。

 

過去のイベントの記録。


 

動画、TVプログラム、レンタルDVD、印刷された新聞やチラシ、ポイントカード等、実際のものはデジタルなシステムを使って制作されていたり、サービスを広く提供する目的のものです。その手軽さや便利さと引き換えに複製や偽造が容易であるという欠点がありました。NFTはそんなデジタル由来のものをブロックチェーンで Non-Fungible Token = 代替不可能にしたということに大きな意味があります。ブロックチェーン技術の出現はデジタルデータ界の革命みたいなものと思っているのですが、李さんはそれらを手描きすることで軽やかに「手描きってもともと代替不可能ではなかったか? Non-Fungibleではないか?」と私たちに示しているようでした。

 

アートの世界で言えばデジタルデータでしか表現できない作品にはブロックチェーンの技術はとても有意義なものですが、もともとアナログで制作可能なものもあえてデジタル市場で発表する意義はあるか、所有権ばかりを主張するものではないか、価格の高騰から一時的な投資商品としてもてはやされているだけではないか、など考えさせられることが多分にあります。アナログ作品でもブロックチェーンに紐づいた保証書を発行することで偽造されがちな作品の真贋が明確になる、持ち主の履歴が記録されるため悪質な転売の抑止になる、NFTの市場に作品を発表することで新たな顧客にアピールできる、新しい才能が発掘されやすい等、いい影響も大いに考えられますが、NFTを取り巻く環境はまだまだ過渡期の段階であり、作家も、市場も、売る側も、買う側も、是非を決めきれない現状があるように思います。自身の今までの手法を用いた上で、このタイミングでNFTについての作品を発表できる李さんの、アーティストとしての瞬発力、時代性はすごいなと思いました。コロナ禍も絡めており、「今」をとても鋭く表している展覧会ではないでしょうか。

 

今回の音楽ジャンル分けはなかなか難しかったです。一見デジタル、でも全アナログ。デジタルじゃないという点がとても重要な作品群ですが、自身の感情の発露というよりは、時代性やコンセプトが大いに感じられ、ある種のフォーマットも感じられるいうことで判断しました。ジャンルについての異論は認めます( 毎回難儀なプロセスですが、音楽ジャンルを考えることで思考が進んで、レビューを書く私が一番恩恵を受けているという感ある、、、)。

 

今、この時代を象徴する展覧会です。ぜひ足を運んでみてください。

 

 

展示風景画像:李漢強 個展「NFT」


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