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感想 樋口明宏 個展「Margaret–少女マンガ彫刻」

 

樋口明宏 個展「Margaret–少女マンガ彫刻」

 

会 期:2022年1月7日(金) - 2022年2月3日(木)

時 間:13:00-18:00(最終日は17:00 まで)

休 廊:日月(火曜は事前アポイント制)

場 所:MA2 Gallery

展覧会URL:

https://www.instagram.com/p/CYY3SWwL_L2/


 

先日、この「少女マンガ彫刻」がSNSのタイムラインに流れてきて、衝撃を受けました。日本のアニメ的表現がアートとして受け入れられて久しく、村上隆さんの「My Lonesome Cowboy」等、アニメ的表現を立体に落とし込んだ作品も制作されているにも関わらず、なんで今までこれがなかったんだろう?というような、盲点を突かれた気持ちでした。

 



 

のっけからこちらです。まるでマリー・アントワネットの晒し首を見ているような、、、。少女マンガ特有の大きな瞳と小さな鼻、口、顎を具えているにもかかわらず、「断頭」というようなおどろおどろしい場面を連想できるのは、木のヒビ割れ、木目等をそのままに晒しているからかもしれません。

 



 

こちらは一見、美術室の石膏シリーズのような作品たち。

 

少女マンガの大きすぎる目って、石膏デッサン至上主義 (失礼) 、ではなく写実主義からすると、揶揄の対象ではありませんでしたっけ?

 

逆になぜ違和感なく少女マンガとわかるままに立体化できたのでしょうか?これはなかなか難しいことと思います。

 





 

真正面はもちろん、横から見ても、斜め上から見下ろしても、違和感なく少女マンガ的です。くるくるとした巻き髪と木材ゆえの木目がとても調和しています。

 

石膏の滑らかな表面よりも、節のある無骨な木材のほうが、より少女マンガの、あのドラマチックかつゴージャスな雰囲気 (私は『ベルサイユのばら』をイメージしています) に合っているように思います。

 


 

「ピキッ (白目) 」の立体化。個人的にはアニメが3Dになった時よりも衝撃です。

 



 

背景の集中線のような演出も全く違和感ありません。

 

既存のものを別の次元に持っていく際、「違和感」が一つのキーワードになるかと思います。本展の作品の場合は2Dから3Dです。違和感を感じてしまうと、その感じだけが悪目立ちしてしまうのですが、これは全く感じません。作家の技術の高さが窺えます。

 

樋口明宏さんは1969年東京都生まれ。東京造形大学造形学部美術学科卒業、東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。2006年国立シュトゥットゥガルト美術大学卒業。一見グロテスクな蛾や甲虫の昆虫標本にスコープを使って繊細な模様を描く「collection」シリーズや、仏像と自由の女神の頭部を一体化した木彫作品「修復 - 神仏習合」など、既存のイメージや異文化間への気づきを促す作品を制作されています。

 

本展のステートメントにはこう書かれていました。

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仏像のような存在はもっと自由にその人の好みの容姿、形式でいいのだと私は思う。

少女マンガ彫刻はそんな仏像のようなイメージで作られている。

私は50 歳を過ぎましたが想像より子供の頃、学生の頃の記憶は鮮明で時間が経ったとはそれほど感じない。

ただ鏡を見て時間が経ったと思う。

気持ちや心 、意識ではなく器、道具としての身体の衰え、変化によって時間が流れた、変わったのだと私は実感する。つまり中身はあまり変わっていないと思っている。

死の実感や新しい気付きによる好みの変化も勿論あるが他人が考えるより本人の意識はそう変わらないのだと感じる。

私は子供の頃大好きだった昆虫やヒーローのオモチャを使った作品を作った。

それは無意識に。

ここで私は大人の女性が少女の頃に恋い焦れた漫画の中の人物のような彫刻( 存在)を作りたいと思っている。

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こちらのステートメントには、大人の女性が少女の頃に好きだったものを仏像のイメージで制作されたと言及されています。文字通り「偶像=アイドル=憧れのもの」ということかもしれません。アイドルとなればその表現に少しでも違和感があれば、今の時代、熱烈な愛ゆえに炎上しかねないのかもしれませんが、前述の通りこれらの作品に違和感は全くなく、往年の少女マンガファンにも受け入れられるのではないでしょうか。

 

昔のアニメから現代への変遷を見ると (例:ドラえもん、攻殻機動隊など) どんどん目の比率が高くなっているような気がします。美しいと感じる黄金比さえも将来変わったりして。

 

違和感なく、日本古来の少女マンガの表現を一段推し進めた展示だと思います。この表現が日本から誕生してくれてよかった!

 

展示会場の1階から4階まで、まだまだ載せきれてない作品が多数ありますので、ぜひ足を運んでみてください。

 

 

展示風景画像:樋口明宏 個展 「Margaret–少女マンガ彫刻」


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