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感想 高木真希人 個展 "Suggesting the Possibility of Art as Time Travel"

 

高木真希人 個展

"Suggesting the Possibility of Art as Time Travel"

 

会 期:2022年11月12日(土) - 2022年12月3日(土)

時 間:13時-19時

休 廊:日月

場 所:Art and Reason (FARO Kagurazaka)

展覧会URL:

https://www.art-reason.com/art-as-time-travel

 


 

高木真希人さんは1986年生まれ、多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業、国内外で作品を発表されています。高木さんの作品はシリーズ化されており、例えば、"snap-shot"シリーズでは暗闇の中で偶然フラッシュ撮影されたクリーチャーたちが描かれ、"moon-shot"シリーズでは月の光のように他からの光を浴びているモチーフが、”stack”シリーズでは積み重ねられた箱、缶、金属、機械などがキャラクター化された姿が描かれています。

 

本展 "Suggesting the Possibility of Art as Time Travel" では、そのような自身の作品に ”AI味” を見出しつつ、過去データの蓄積がなければ作品を制作出来ないAIとは異なる、人間ならではの表現として「未来からの手紙」と芸術を捉えた作品群が発表されています。

 

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本展によせて:

「芸術がタイムトラベルである可能性の示唆」

自然界が、AIによる「完璧に充足された過去」と対峙する時、芸術は未来からの手紙かもしれない。

高木真希人

 

(Art and Reason リリースページより抜粋)

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本展の作品は、"snap-shot"シリーズ、"moon-shot"シリーズ、”stack”シリーズと特定のシリーズにはっきり分けられるものではなく、各特徴も有しつつ、折衷したような作品になっています。

 

 

「Simple study」

機械が擬人化したような不思議な雰囲気のクリーチャーです。

確かに、この不思議な擬人化に ”AI味” を感じるかも。 

 

「Simple study」(部分拡大)

床や背景のグラデーションが驚くほど滑らかです。高木さんは某現代美術家スタジオのカラー担当アシスタントだったという経歴もあり、高い描画技術や絶妙なカラーのこだわりが作品にも現れています。紙や白手袋に反射したピンクやブルーの色も、自然に馴染んでいる。この正確さも ”AI味” に通じていそうです。


 

「That cape is cherry red」

"snap-shot" で撮影された感じがありますが、"moon-shot" のように照らされている光の表現や、奥の看板、ネオンサイン、夕日といった光の描き分けにも見入ってしまいます。ユーモアあるクリーチャーの形状も好きです。

 

「That cape is cherry red」(部分拡大)

レザーグローブやベルトの質感、塗料が飛び散っている奥のブルーの壁、サッシの質感が手に取るように伝わってきます。

 

「That cape is cherry red」(部分拡大)

画像に写しきれていませんが、クリーチャーが着ているタイツっぽい服の黒と、背景の黒は、それぞれ青味の黒と黄味の黒とに分けて彩色されているそうです。肉眼で見てやっと分かるかな、というところですが、その絶妙な色の差で、作品全体をぱっと見た時にクリーチャーの輪郭が夜景から浮かび上がって見えてきます。輪郭線は描かれてないのに。


 

「Stack-Gesso can」

目が描かれてクリーチャーのようなCANSOL (地塗り材) の缶が積まれています。

 

「Stack-Gesso can」(部分拡大)

クリーチャーも魅力的ですが、背景にも惹かれます。


 

「Mock stack_polymer clay and superglue」

ラジカセなどのモチーフが確認出来ます。80年代〜90年代くらいの文化が未来で発掘されたようにも見える。未来から見たら、これは例えばストーンヘンジのように、何か謎のモニュメントに見えるのかも。背景がジャングルっぽいのも気になります。発展した文明がリセットされた未来でしょうか。

 

 

 

 

そして正面にあるこの3作品、とても気になります。

 

 

「Suggesting the Possibility of Art as Time Travel」

展覧会のタイトルが描かれています。タイトル回収、ということなので、この3作品は特に意味がありそう。

 

「Suggesting the Possibility of Art as Time Travel」

(部分拡大)

ガラスに液体が垂れているような質感の背景。


 

「My first seraphim」

これもクリーチャーに視線が行きつつも、、、→

 

「My first seraphim」(部分拡大)

背景がガラスっぽくて不思議。


 

「Remover and seraphim on glass」

こちらも→

 

「Remover and seraphim on glass」(部分拡大)

ワイパーで拭いたような跡があります。


 

ガラスの質感や何かを拭いた跡のような表現に注目してしまいましたが、これがあながち間違いではなく、会場のArt and Reason の方に伺ったエピソードによると、この作品で描かれているのは「建物の曇りガラス部分に書かれた落書きを溶剤で拭き取った跡」で、これを高木さんは「実際に存在する抽象画」として発見したそうです。

 

実際に存在する抽象画、、、抽象の概念が覆りそうで、面白い! この背景をどこかで見たことがあるように感じましたが、実在する現実を描いているからそう感じたのかも知れません。

 

 

並んだ2作品を改めてみると拭き跡に繋がりが見えます。

左:「My first seraphim」 右:「Remover and seraphim on glass

 

抽象っぽく見える背景が実在していて、具体的な形を有しているクリーチャー、すなわち、この2作品ではタイトルからseraphim (セラフィム = 熾天使。六枚の翼を持つ。参考:イザヤ書 第6章 2。「熾」は「火が盛んに燃える」の意。) という天使なんですが、それは実存しているものではない、というところがとても興味深いです。実存していない、とか言い切っちゃうと信じている人は気を悪くするかも知れませんが、、、。この作品では「実際に存在する抽象画」に出会わせてくれた目に見えない存在に対して、高木さんが「天使を見た」というような印象を得たのかな、と勝手に想像しました。エモい。

 

例えば、AI に「天使を描いて」と言ったら、膨大な過去作の中から形を選び出し平均化して、広く一般に理解されるような形を出してくると思うのですが、この過程は「抽象」化するということと類似しています。

 

抽象:

与えられた対象全体から、特定の性質や共通の徴表を分離し、抜き出す精神作用をいう。(コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)の解説)

 

逆に人間が「天使を描く」という行為の裏には「目に見えないものを信じたくなる出来事」という経験があったり、そういう心境になるきっかけといった、「具体的」で「個人的」な「実際の経験」がある、と想定すると、AI が描くことと人間が描くことには真逆の経過がある、ということに繋がりそうです。

 

AI は過去の蓄積から得られる抽象しかみせてくれないけど、人間は未来において叶えられる具象を描くことも可能。そんな風に言うと論が飛躍したように感じてしまいますが、人間が感動したり「実体験」をもって表出するものには、人の心を動かす力が備わり、未来に実際に叶えられる可能性が含まれている。例えば、未来の家庭用ロボットとしてドラえもんの形状を実現したいと思う気持ち、ありませんか? あれは、人の想像で作ったものですが、慣れ親しんだ国民的アニメということで、あの形状の中には、すでに多くの人の思い出や愛着が乗っかっていると思うのです。

 

ここでもう一度、タイトル回収↓

「Suggesting the Possibility of Art as Time Travel」

「芸術がタイムトラベルである可能性の示唆」

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たとえ私達の将来の決定事項をAIが担うことになったとしても、豊かな未来を思い描き、よりよい私達の将来を作り上げていくのは、人間のみが持つ感情や精神が織りなしていく文化や芸術に他なりません。

(Art and Reason リリースページより抜粋)

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なかなかに感慨深いものを感じながら、もう1つの展示室へ。

 

 

「Stack _Lingo Lingo Lingo」

可愛い。タイトルの「Lingo」には業界用語という意味があります。

 

「Stack _Lingo Lingo Lingo」(部分拡大)

業界用語との関連は不明ですが、こうやって穴が空いたリンゴがキャラクターのように見え、感情も有していると感じるのは人間特有の感覚でしょうか。


 

「Snoozer」

スヌーズは居眠り・うたた寝の意味で、たくさん描かれたシンバルから朝起きられない人が連続で目覚ましをセットするようなイメージにも見えますが、、、→

 

「Snoozer」(部分拡大)

クリーチャーのメイクからバンドを連想し、タイトルの「Snoozer」からも音楽雑誌をイメージしてしまう。

こういう意味を含ませた絶妙な形状のキャラクターは人間にしか作れないのではなかろうか。


 

「Fēng」

タイトルはピンインぽいので、中国語でしょうか?

「丰」= 美しい人

「峰」= 峰

 

「Fēng」(部分拡大)

背景もどことなく水墨画のイメージが。背景にさらに文字が見えます「BǍOBÈI !」宝物? かけがえのない人、という意味もあります (È が Ě のように見えるので、地名かも知れません、Bǎoběi Village 宝北村)。


 

「Bǎobèi」

こちらのタイトルは宝物の意味 (宝贝) だと思われます。

 

「Bǎobèi」(部分拡大)

描かれている場所が実在しているしていないに関わらず、すっとその場所とその時間に連れて行ってくれる絵です。優しい灯りの下、料理の香りも漂ってくる。


 

 

 

 

個人的には「AI の描く絵をどうしても受け入れられない」という考えなので、本展のように、「AIが描く絵」と「人間が描く絵」との違いを考えさせられるテーマはとても興味深かったです。「実際に存在する抽象画」というパワーワードも衝撃でした。それ自体も、グラフィティ文化の流行という、人間が作り上げたカルチャーやアートの歴史があってこその結果、建物の曇りガラスに誰かが何かを書きそれを溶剤で消したから出来上がった産物で、高木さんが作品として取り上げたというところまで含めて、感じるところがあります。セラフィム、本当にいるんじゃないかしら?

 

当初は意図しなかったことの、未来への結果に思いを馳せることが出来た展示でした。「芸術がタイムトラベルである可能性」について、ちょっと真剣に考えてみたくなります。ぜひ、足を運んでみてください。

 

 

 

 

 

展示風景画像:高木真希人 個展 "Suggesting the Possibility of Art as Time Travel"


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