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感想 宍倉志信 個展「だれもあなたのことを忘れてくれない」

宍倉志信 個展「だれもあなたのことを忘れてくれない」

 

会 期:2022年8月2日(火) - 2022年8月14日(日)

時 間:17時-26時

休 廊:月

場 所:デカメロン

宣伝美術:奥田奈保子(NiNGHUA)

構想:吉田山

主催:FL田SH

共催:黒瀧紀代士(デカメロン)/FLOATING ALPS LLC

制作協力:岡千穂

入場料:500円 (共同個展合わせて鑑賞可)

展覧会URL:

https://decameron.jp/exhibitions/220802.html


 

本展は、笹田晋平/宍倉志信「ビューティフル・イミテーション/だれもあなたのことを忘れてくれない」という共同個展で開催されており、それぞれ別記事でレビューさせていただきます。もう一つの展示は→こちら

 

本展構想の吉田山さんによれば「それぞれの個展は大枠でのコンセプトやテーマを設定することなく、別の展覧会として話し合いを進め、グループ展とは別の仕方を構想し、制作されました。(展覧会URLより)」とのこと。文字通り「別の展覧会」でありながら、何か共通のコンセプトを勝手に感じ取ってしまうのが鑑賞者の性。ひとまず別々に記事を読んでいただけましたら幸いです。

 

宍倉志信さんは1996年生まれ、東京藝術大学映像研究科メディア映像専攻修了。ゲーム、映像、インスタレーションなどを通して、現代の「儀式的体験」を鑑賞者に提供する作品を制作されています。CRS、健康機構、P.S. Community等のナビゲーターも歴任されており、それらはなんぞや? となるわけですが、例えばCRSはCyber Reincarnation Seminarのことで、素敵な電脳転生体験をお届けすることを目標としている団体、とのことです。詳しくはこちらのHP (https://crs-shopping.site/) をご覧ください。また、気鋭の芸術家によるマテリアルショップ「カタルシスの岸辺」にコアメンバーとして在籍。「カタルシスの岸辺」は2022年8月現在「死蔵データグランプリ」(※) を開催しており (応募は受付終了) YouTubeチャンネルで予選から公開しています。

※死蔵データとは、公開していない、誰に見せる予定もない、自分しかその存在を知らないデータ一般のこと。自分自身が生成したものであることが条件。(YouTubeチャンネル カタルシスの岸部 動画の概要部分 より)

 

本展では、宍倉さんがナビゲーターを務める健康機構によって製作された「新作健康診断機器」によって、自分の中に思想的障害があるかどうか、診断を受けることが可能です (要100円玉数枚) 。

 

 

 

「QISDTD - J」

作品は椅子も込みです。会場には宍倉さんご本人がいて、画面の前で固まる私を見かねて操作のヒントを少しだけ教えてくださいました。とりあえず「100円を入れてスタート」!

 


「QISDTD - J」(部分)

すでに怪しい字体。

 

これはあまり細かく操作方法をお伝えしちゃうとつまらなくなるので、詳細は伏せますが、とにかく100円を入れてスタートです。

 

「QISDTD - J」(部分)

パチスロ経験者は操作方法に戸惑わないのかも知れませんが、、、私はけっこう迷子でした、、、。

 

「QISDTD - J」(部分)

色々なボタンがある。


 

「QISDTD - J」(部分)

念の為、補足ですが、この作品は元々パチスロ機器だったものの外側だけを拝借しており、賭博機不正改造に当てはまらないくらいにガッツリ中身をオリジナルに変えています。違法ではありません。


 

とっても洗脳されている気分になるカッコ怖い映像を見ながら、指示通りボタンを押していきます (画像はありませんので想像してください) 。

 

初回、「あなたには」「思想障害が」「ないです」という診断結果だったのですが、なかったためか診断書は出てこず。内心、異常がなくて喜ばしいと思ったものの、なぜか画面に「100円を入れてコンテニュー」と表示されていて、、、?

 

「QISDTD - J」(部分)

あれ、最初は「100円を入れてスタート」だったよね?  と記憶を辿りつつ、コンテニューしなきゃ終われない!という気持ちになってきます。


 

宍倉さんによると診断書が出ない場合もあり、コンテニュー可能とのこと、、、? お、これは、私はゲームクリアに失敗したな (ゲームじゃない)。

 

操作も慣れたので、もう一度トライです。

 

すると、確かに先ほどは進めなかったラストまで進むことが出来 (ゲームではありません) 、3度ほど「あなたには」「思想障害が」「あります」と宣告された後 (この「あります」の画面がなんとも不気味なので必見です) 、モニタに診断が表示されました。

 

「QISDTD - J」(部分)

診断されてもうた、、、SDTD 。え? カッコいい。緩死性思想障害 (Slow Death Thought Disorder?) ですね!(この病名も作品です)。

 

そして無事に診断書がプリントされ、私は自分のアイデンティティを手に入れたのでした。

うん。当たっている。モニタにはなぜか「おめでとう」と表示されていました。障害があるとめでたい?

 

 

展覧会タイトル「だれもあなたのことを忘れてくれない」を初めて目にした時に、自分の個人データが未来に残り続けるデータ社会の恐ろしさを感じつつも、得体の知れない安心感も感じました。「あなたのことは忘れません」だと、忘れられそうだし、無理して覚えている感がある。「忘れてくれない」だと「忘れていいよ」と言っても「忘れてくれない」という感じ。この安心感はなんなのだろう? ゴシップや醜聞は忘れてほしいのに、そのような話題であったとしても、完全に忘れられるよりはマシだ、という気持ちがどこかにあるのではないか。

 

人間には、自分の存在を完全に忘れられてしまうことの潜在的な恐怖が根付いていて、たとえ異常という診断結果であっても、自己を定義してもらうことで存在を意識してもらい、安心感を得ている。具合が悪くて病院に行ったのに、原因不明で診断名がつかない時の不安感。逆に、診断が下った時に感じる落胆と安心感。まるで自己のアイデンティティ、キャラを与えられたかのようで、自分はどうすればよいか導かれる感覚。本作品を体験して、最初は、思想的障害がないほうがいいのかと思いましたが、SDTDの診断結果がなんだかカッコよくて、イミテーションの診断を授かった自分がキラキラして感じられる。奇しくも、共同個展の笹田晋平さんの個展タイトル「ビューティフル・イミテーション」を当てはめても、なぜかしっくりきてしまう。

 

ないはずのものを内に見出して、そのことに恐怖したり安心したりするのが人間。

 

診断結果はいくつあるのか? 診断が下されるまで永遠にコンテニューが表示されるのか? ちょっと洗脳システムっぽい? など、いろいろな謎も残っています。ぜひ足を運んで確かめてみてください。


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