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【おすすめ MAGAZINE】芸術新潮 2024年 2月号 特集|会田誠が考える 新しい美術の教科書

 

今回は、雑誌の特集をおすすめしたいと思います。

 

 『芸術新潮 2024年 2月号』

会田誠が考える 新しい美術の教科書

 

 

 


 

 

 

会田誠氏といえば、SNSでもそのつぶやきがよく炎上する🔥話題になることで知られています。もちろん、SNSだけでなく、女子高生が切腹している図とか、《犬》シリーズとか、「美少女」という文字の前で自慰してる映像とか、いろいろ物議を醸す作品を作っている現代美術家です。

 

私個人としては、ずっと昔に購入していたマイナーなアート雑誌——隔月発行、でも2ヶ月で読みきれなかった、今だったらZINEフェアとかでコアなファンがたくさんつきそうな——『FREAK OUT』※ のインタビューで《ミュータント花子》が紹介されたあたりから、会田氏の独特の語り口に魅かれていました。基本ふざけてるけど、こちらが脱力しているところにゴキブリを放り込んでくるような芸風ですよね。

 

 

 

余談ですが、この『FREAK OUT』の別号 vol.16 には、長谷川祐子さんがマリーナ・アブラモヴィッチをインタビューした記事も載っていました。ん? 紙面には、長谷川「裕子」さんとなっているけど、(ローマ字の表記は Yuko) 同姓同名の方なのか? 真偽は定かじゃないですが、マイナーとはいえ、かなりすごい雑誌だったなぁ。

 

巻末の荻原広さんの編集後記がまた良くって。なんだか今の話をしているみたいです。あぁ、私たちはちっとも進歩していないのか、いや、むしろ後退していそう、、、。

 

 

 

 

以下は《ミュータント花子》登場の回

 

『FREAK OUT Vol.18』光琳社出版, 1997 より

 

『FREAK OUT Vol.18』光琳社出版, 1997 より

©会田誠


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『FREAK OUT Vol.18』光琳社出版, 1997 より

本稿で取り上げる『芸術新潮 2024年 2月号』の表紙になっている《東京城》2021 につながりそうな1995年の作品《新宿城》も載っています。

 

 

 

『芸術新潮 2024年 2月号』新潮社, 2024 表紙の《東京城》2021

 

 

 

 

 

本特集が気になったきっかけはSNSにあげられた手書きの表

 

世間に喧嘩売ってるお兄さんとして会田氏を『FREAK OUT』でワクワクして読んでいた頃からだいぶ時が経ち、今や「大御所」的な見られ方をしている会田氏の情報からは少し遠ざかってしまっていたのですが (会田氏が悪いわけではないです、自分の不勉強です) 

 

下記のつぶやきをXで拝見して、手書きの、雑な解釈満載の表に独特の皮肉と『FREAK OUT』の懐かしさを感じ取り、つい本誌をポチッとしてしまいました。

 

私が今、一番興味があるのも「中世キリスト教の下手っぴな絵」、、、。

 

この「下手」とか「上手」とかいう判断基準も、長ーい歴史からみたらごく一部の短い期間で確立された特殊なものである、というのが、ヴォリンゲル『抽象と感情移入 ——東洋芸術と西洋芸術——』岩波書店, 1953 で語られていたことかと思います、、、。ヴォリンゲルは原著を1907年に学位論文として申請しているので、この「下手っぴ」という感覚は約120年くらい前にすでに反論されている、、、と理解しています。

 

とはいえ、会田氏のこと、きっと反論を見越してわざとこんな極論を載せているのだろうな、と思いますが、果たして?

 

 

 

『芸術新潮 2024年 2月号』新潮社, 2024 より

余談ですが、その下に掲載されていたこちらの図も、ガラパゴスと言われたりする日本の美術の守備範囲をこれまたシンプルに表していて、かなり好きです。

全く美術に興味がない人に「いわゆるデパート展」「地方の芸術祭」「アートマーケット」などを説明するのに便利そう。

アニメ、マンガは世界に飛び出している部分もあるはずなので、この図を全面的に支持する、というわけではないですが。


 

 

 

 

 

結論から言うと、自虐?

 

もう結論、早いか、、、?

 

読了した感想としては、先ほどの「手書きの、雑な解釈満載の表」は、やはり皮肉で、表で言うところの下の⭕️印に属している会田氏が、自虐を用いて「延命された芸術ゾンビ」と言う「現代美術」の、さらに「コンセプチュアルなもの」に絞り、広く関心を喚起している内容、と言えそうです。

 

『芸術新潮 2024年 2月号』新潮社, 2024 より

 

 

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やはりデュシャン以降の、もしかしたら邪道の「狭い意味の現代美術」が日本ではいまだに定着していない現状を鑑み、それの紹介を中心に据えています。

 

 『芸術新潮 2024年 2月号』新潮社, 2024 P.19より抜粋

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対象年齢は中学3年生!

ですが、もちろんこれも冗談めかしていて、大人に向けて発信しているものと思われます。

 

読みやすい文、かつ、分かっているようで分かっていなかった部分の見直し、知らない部分の入門書、として、「鑑賞初級〜中級」が楽しめる内容になっていると思いました。おすすめ❗️

 

 

 

 

 

ちなみに、私が「むー」と思い、あえての皮肉と予想した「中世キリスト教の下手っぴな絵」についての言及は全くありませんが、特集内1時間目の「美術に政治を持ち込もう!」のセクションで

 

 

 

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「絵なんて綺麗ならそれでいいんだよ」と思っている人は、まだけっこう多いんだ。

 

〜〜〜(中略)〜〜〜

 

——だっていまだに「絵なんて綺麗ならそれでいい」と思っている人がいっぱいいるんだからね。

 

『芸術新潮 2024年 2月号』新潮社, 2024 PP.22-23より抜粋

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という、「絵が綺麗ならそれでいい」という考えに対して否定的な部分を読み、綺麗とは言い難い「下手っぴ」の存在意義が回収された、と勝手に溜飲が下がったので良かったです。

 

 

 

 

この特集を時代から考えてみる

 

冒頭で紹介した『FREAK OUT』の話にまた戻るのですが、この『芸術新潮 2024年 2月号』の特集に「会田誠が考える 新しい美術の教科書」が現れたことを時代と合わせて考えてみたいです。

 

『FREAK OUT』が刊行されたのは1994年 (音楽雑誌として同名の Freak Out Magazine がありますが別物です) 。1990年代後半という時代では、アートは本当にアングラな文化で、一部のファンのために「一般に向けて全く開かれていない」雑誌がひっそりと刊行されている、というような状況だったと記憶しています。エログロナンセンス。そんな内容も多かったです。でも、濃くって面白かった。

 

それが明るみに引っ張り出された2020年代。いや、明るみに引っ張り出されたのはいつからなのか? 2010年代からなのか?

 

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また、2018年には京都造形芸術大学 (当時) の社会人向け連続講座「ヌードを通して、芸術作品の見方を身につける」において、「講師の会田誠さんと鷹野隆大さんが見せたスライド画像が性的にショッキングだった」と、受講生の一人の女性が (講師の二人ではなく、講座を開催した) 大学側を「環境型セクハラだ」として訴えたよ。これは大学側が少額の賠償金を払って決着したよ。

 

『芸術新潮 2024年 2月号』新潮社, 2024 P.39より抜粋

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あぁ、この件を知った時はショックでした、、、。日陰者のアート好きとしては、もっともっと市民権を得たいと思っていた時期がもちろんあります。でもこんなことは想像もしていなかった。想像力の欠如。私も純粋だった。純粋で愚かだった。日陰者が明るいところに出たらどうなるのか、考えれば分かることだった。オデ、、、オデは、明るいところに出ちゃいけなかったんだ、、、。こういう主題が作品になり得ること、作品にしている人がいること、そんなことが広く知られれば、面白いと思ってもらえると純粋に信じていたんだ、、、うおおおおぉん。

 

 

 

90年代の空気が懐かしいついでにいろいろ出してきてペラペラとめくっていると『FREAK OUT』Vol.14の石川雷太さんのページには、もろに動物の死骸、牛の頭などが掲載されていました、、、おおぅ。この号は、表紙が自分好みで背表紙もピンク色で、ポップでかわいーと思って手にとって、中身がハードでそのギャップにぐぃっと惹きつけられたのでした。インタビュー記事に蛍光ペンでたくさん線が引かれている、、、。

 

 

 

まぁ、明るい面に目を向けましょう!

アートは陽の当たるところで語れる文化になったのです。

 

今思えば、私が親しんだ90年代のアングラな雑誌は、会田氏が属している部分含め、ある意味で限られた部分しか語っていなかったとも言えます。

 

下の図で言えば、インターネットの普及によりアートが広く知られることとなり、今や、紫色🟣の丸で囲った大部分について、雑誌に限らず個人のブログやSNSでも様々な発信者が語っているということです。

 

広く受け入れられるアートの中には、もっと語れるものもあります。

 

アングラ、エログロ、ショッキングでセンセーショナルで社会的、偏った価値観を覆し、常に考えさせる作品はもちろん必要です。そっちこそが現代アートの王道かもと思いますが、実際に作品を買うとなったら動物の死骸はなかなか難しい、、、ダミアン・ハーストの《A Thousand Years》をくれると言われても困るわけです。毎朝、毎晩、見るのかー、、、的な。このインスタレーション作品は、2022年、血まみれの牛の頭の部分を取り除き《A Hundred Years》としてドイツのヴォルフスブルク美術館で展示されていましたが、数百匹のハエが死んだとして動物愛護団体 PETA が美術館に苦情を提出し、市の獣医局が美術館に口頭で注意、その後、作品は撤去されたそうです。

→参考記事:ART news JAPAN ハエが死ぬダミアン・ハースト作品に動物愛護団体が抗議

 

これは時代なのかなぁ、時代と言ってしまっていいのかなぁ、、、答えは見つからず。

 

エログロ禁止のコンプラ社会なら、ある種のプロパガンダ的な「綺麗」に 対抗出来る残された手段は「下手っぴ」かもしれない! (無理矢理、自分の興味ある部分に繋げていくスタイル)

 

 

 

そんなホワイト社会 (by 岡田斗司夫氏) である2024年に、90年代からエログロを代表するような作家として評価されてきた会田誠氏が精一杯の配慮で (笑) 挑んだ「新しい美術の教科書」。

 

未来から振り返った時に、時代を象徴する資料としても価値が出てくるかもしれません!?

 

 

 

 

 

そんな感じでおすすめです。ぜひ。

 


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